「MRIとってほしいんですけどー」って言われても困るんです
週刊新潮が、あえて言う「後期高齢者医療制度」は絶対に必要だ、という記事を連載しています。現在本屋さんにならんでいる7/31号で5回目です。
この連載の特徴は、日本の医療制度の抱えているシビアな問題点をいろいろと指摘しているところです。そして医療制度の改革が必要であると訴えていることです。後期高齢者医療制度によってその問題点が解決するかどうかはいっさい論証されていません。ところが、タイトルだけは記事の内容とは無関係に「後期高齢者医療制度は絶対に必要だ」となっています。著者の櫻井よしこさんが週刊新潮編集部のタイトルのつけ方に文句をつけないのが不思議でしょうがありませんね。
さて、週刊新潮7/31号では、「日本の病院ではMRIやCTが多く使われすぎていて医療費が無駄になっているのではないか」という問題点が指摘されています。週刊新潮に同調するわけではありませんが、これが問題であることは病院に働くものとして日ごろから痛感しているのです。
MRIもCTも体の断面の写真がとれるという検査装置です。今ではほとんどの病院にCT装置があります。MRIは高価な装置なので、全ての病院にあるというものではありません。そんな状況のなかで、病院の受付にいると、しばしばこんなお客様が訪ねて来ます。
来客 「あのー。MRIとってほしいんですけどー。」
受付職員 「どちらかの診療所からの御依頼でしょうか。」
来客 「いえー、違います。」
受付職員 「じゃあ、どこかお体の具合が悪いんでしょうか。」
来客 「いやー、別にどこが悪いっていうんじゃないんですけど、MRIとったら悪いところがすぐにわかるってテレビでやってたから、とってほしいなあって思って。」
受付職員 「MRIをとるためには、医師の指示が必要なんです。まずはお医者さんの診察を受けていただいて、具合の悪そうなところを相談していただいて、そのうえでどこのMRIをとるかが決まるんです。健康の不安があるんでしたら、まずは診察を受けて医師とよく話し合ってみていただけませんか。」
来客 「そうなんですか。病院にいったらすぐにMRIをとってもらえるんだと思ってました。また、でなおしてきますわ。さいなら。」
CTは原子力発電所の原子炉の近くに行くほどの強烈な放射線被曝を伴う検査で、CTの被曝によって癌になる人が増加することが世界的に懸念されています。日本は世界のCT装置の3分の1が稼動しているCT超過密国家で、特に発癌の危険性が高いのです。MRIは磁気を使って体内の写真をとる技術で、放射線被曝の危険性はありません。ですから、MRIなら気軽にとってもらったらいいよって考える人も多いのです。
しかし、MRIはSF映画にでてくるような絶対零度液体ヘリウムによって稼動する超伝導磁石を使うので、すごい電力エネルギーを使う検査装置なのです。お金もかかります。また、レントゲンのように一瞬で撮影できないのです。長時間がかかりますし、工事現場のようにうるさい騒音が発生する箱の中に閉じ込められて検査するので、我慢できずに途中でギブアップする人もいるのです。とうてい記念撮影をするような気分で出来るような気軽なものではありません。
また、MRIは疾患の種類によって撮影方法が違います。たとえば、脳のMRIをとる場合でも、発生直後の脳出血を見つける目的で撮影する場合と脳動脈狭窄を見つける目的で撮影する場合では撮影方法が違います。ですから、医師が診察してある程度病気のめどをつけたうえで撮影しなければ、有効な検査はできないのです。
MRIでうつす写真がどれくらい鮮明なものなのかは、磁力の大きさによってきまります。普通にデジカメで写真を写すときでも、フラッシュが強力かどうかで写真写りが鮮明かどうかが変わったりするのといっしょです。日本で最強のMRI装置は新潟大学にある7テスラの装置です。(テスラは磁力の大きさを現す単位) 全国の病院では1.5テスラ以上であればそうとう高性能なMRIだといわれています。ところが実際、ちまたの病院にあるMRI装置は0.5~1テスラ程度のものばかりです。もちろん、0.5テスラでも充分に役にたつ場合もあるのです。しかし、残念ながら0.5テスラでは写らない疾患があることも事実なのです。
問題は、医療技術を報道するテレビ番組です。MRIで写真をとってもらえさえすればどんな病気でも一発で見つかるというようなタッチの報道で誤解を広めているのです。こんな誤解にもとづいて、「MRIのある病院はいい病院。MRIのない病院は劣った病院」と考える患者が増えているから、「0.5テスラのやつでもいいからとにかくMRI装置を購入しようぜ」と判断してしまう愚かな病院経営者があらわれてくるのです。
実際は、MRI装置を持つ病院の中で4割の病院はMRIが赤字だと言われています。何億もするMRI装置を購入して月賦を払わなきゃいけないのに、現実にはMRI撮影を必要とする患者はそんなに多くはないからです。あちこちの病院がわれもわれもとMRI装置を購入したおかげで、どこの病院もMRIが経営を圧迫しているのです。そして、病院経営としては、本当は必要でなくてもとにかくMRI撮影を行なおうという指令を医者に発することになるのです。私たちの働く病院ではありませんが、ちょっとした頭痛だけでMRIをとろうなんていう病院が世間にはあります。結果は常に「異常は発見できず」です。無駄だとわかっていてお金を稼ぐためにとっているのです。
これがMRIで医療費が無駄遣いされているという実態です。この陰謀をしかけたのはいったい誰でしょうか。みなさん、もうお分かりですよね。ジェネラルエレクトリック、東芝、日立などのMRI装置を販売する大企業です。
週刊新潮もMRIによる医療費の無駄遣いのことを報道するのなら、東芝や日立がいかに「MRIをとってほしい」と誤解するようなウソ宣伝工作を行っているかの実態を取材して欲しかったです。
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