この自由な世界で
ケン・ローチ監督の映画「この自由な世界で」(it's a free world...)を見てきました。2007年ベネチア国際映画祭最優秀脚本賞をとった映画です。大阪では11月22日から上映が始まっています。
舞台は現代のロンドン。主人公のアンジーは33歳のシングルマザー。借金を返すために働きづくめで一人息子は両親に預けたまま。職業紹介の職場でセクハラに抗議したせいでクビになってしまい、ルームメイトのローズといっしょに労働者派遣会社をたちあげます。
アンジーの派遣会社が雇うのは移民労働者。イギリスでは外国であってもEU加盟国からきた労働者を雇うことは合法的です。そこで、失業者であふれる東欧のポーランドなどからたくさんの人が出稼ぎで働きにきています。イギリス人がいやがるような苛酷な仕事を安い給料で引き受けるのが移民労働者なのです。
しかし、イギリスでもEU加盟国以外、たとえば旧ソ連のウクライナやイランから来た人の就労は認められていません。観光ビザで入国しての就労は不法就労です。アンジーは職を求めてやってきたイラン人を追い返します。
ところが、派遣先の会社の社長はアンジーにささやきます。「不法就労者のほうが文句を言わずに働いてくれるから良いなあ。偽造パスポートを持ってくる奴のほうを歓迎するよ。」 アンジーは国外追放におびえるイラン人家族を助けてしまったことがきっかけで、越えてはいけない一線を越えてしまいます。そしてそのことはとんでもない事件をひきおこします。
アンジーは違法行為を繰り返すはめになっていきますが、決してねっからの悪人ではありません。また、善人でもありません。自分の力で生き抜き、一人息子を幸せにしたいと願うだけの母親なのです。移民労働者たちから感謝されもしますが、激しい憎しみの的になったりもします。ただ、「生き抜くためにはなにをする自由もある」という生き方が、アンジーの人生を狂わせていきます。
年老いた父親はアンジーの生き方をはらはらしながら見守り、「自分さえ良ければ他人は地獄に落ちてもいいのか?」と諭します。まじめに地道に働いてきた父親の愛を感じる暖かい視線は救いではありますが、それでもアンジーの生き方を変えることはできません。
映画が終わるとき、観客は呆然としてしまうことになります。ハッピーエンドでは終わるはずもない物語。なぜなら、そこに描かれているのは移民労働者の救いがたい現実だからです。「何をしても自由な世界なんだ」と世界の経済をバブル崩壊でめちゃめちゃにしてしまった資本主義が、移民労働者を食い物にし、弱いものにしわ寄せをすることで生き延びようとしている現実が今、そこにあるからです。
日本では「移民労働者」という言葉さえ認められていません。私たちが普段から食べているコンビニ弁当を作っている工場で働いているのは多くがブラジル人や中国人なのです。しかし、日本では外国人の労働者は人間扱いされていません。
この自由な世界で、私たちが何をしていったらいいのか、深く考えさせられる映画です。
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