« 黙示の労働契約って、なんのこと? | トップページ | パナソニック全国総行動09夏 開始! »

パワハラは警察に訴えてはいけないの?

 次のような質問をいただきました。

 職場で上司からひどいいじめを受けています。頭がおかしくなってしまいそうだったので、近所の警察に相談してみたのですが、話は聞いてくれるのですが「行ったらたいへんなことになるから」と言って動いてくれません。警察につかまえてもらうことはできないのでしょうか。

 パワーハラスメントは犯罪なのですから、被害者が警察に通報して加害者を逮捕してもらおうというのは自然な発想ですよね。しかし、私たちもすでに試したことがあるのですが、これはなかなかうまくいかないようです。

 警察というところは、民事不介入というのが基本的なスタンスになっています。市民どうしのトラブルすべてに介入するわけではなく、刑法に違反する事件に限って動いてくれるのです。企業の内部で発生した事件の解決はまずはその企業の経営者に責任があるので、警察はなかなか動いてくれません。

 「電車の中の痴漢なら犯人は警察につかまるのに、会社の中で上司に痴漢されても泣き寝入りなのか」ということがよく問題にされますよね。そうなんです。会社の中には警察は簡単にははいってこれないのです。

 ましてや、日本にはまだパワーハラスメントそのものを禁止する法律がありません。ですから、パワハラ事件が発生しても警察が動ける場合はごく一部に限られてくるのです。

 職場いじめ・パワーハラスメントが刑法にあきらかに違反する場合で、そのはっきりとした証拠があげられる場合しか、警察は動きたくても動けません。

 パワハラが刑法に違反する場合とは、主には刑法204条に規定されている傷害罪です。仕事中に上司に鉄の工具で殴られてケガをしたというケースがありましたが、このような場合は暴行による傷害罪に該当するので警察も動いてくれます。ただし、証拠が必要ですので、ケガをした直後に病院に行ってケガの程度を診断をしてもらい診断書をもらっておく必要があります。気が動転している犯行の直後にはなかなか難しいことですが、凶器の写真を写メで撮影しておくのも証拠として有効です。

 物理的な暴行ではなくても傷害罪に該当する場合があります。法律用語では「無形力による傷害」といいます。激しい精神的ないやがらせを行うことで精神的に衰弱させたり精神疾患が発生した場合がこれにあたります。

 ただ、この場合は証拠があるかどうかが問題になってきます。精神的な疾患になっているという医師の診断書だけでなく、「無形力による傷害」があったという証拠が必要です。職場いじめではありませんが、度重なる電話によるいやがらせで被害者を精神的に衰弱させたという事件では、電話の記録が残っていたために傷害罪を立証することができたというケースがあります。

 パワハラが刑法に違反する場合として、刑法230条に規定されている名誉毀損罪も該当することがあります。

 名誉毀損罪とは、第三者がいる公然の場所で、具体的な事実を示して相手の名誉をおとしめるようなことを言うという犯罪です。上司が部下の失敗をねたにして第三者がいるところで侮辱をすれば、名誉毀損になるわけです。

 ただし、業務を遂行する上で必要な正当な叱責・指導は名誉毀損にはあてはまりません。部下のミス、行為の誤りを指摘するにとどまらず、部下の人格を否定するような場合が名誉毀損なのです。「まともな人間ならこんな失敗するはず無い。あんたはそもそも人間としておかしいと思うな。親の顔が見たいわ」というような発言を第三者がいる場所で行えば、それは業務上の指導ではなく個人の人間性にたいする侮辱であり、名誉毀損になります。

 あるいは、一回のミスにたいして何回も何回もくりかえし蒸し返しては叱責するとか、わざと職場の関係ない職員までもを集めておいてその前でつるしあげるというのも、業務上の正当性を越えているので、名誉毀損の疑いが濃くなります。

 ただし、名誉毀損罪は本人が「わたしは名誉を毀損された」と申し出ることによってはじめて成立する罪です。罪の成立を申し出る上でも、証拠の存在が問題になります。名誉を毀損するような内容の文書が職場で配布されたという場合は別にして、口頭での叱責ではなかなか証拠が残らない場合が多いのです。

 口頭での名誉毀損・侮辱があった場合は、録音しておくしかありません。職場のパワハラの場合、仕事中に録音をする必要がでてきます。

 労働者が業務中に職場のやりとりを録音するというような行為は、会社はまちがいなくいやがります。「企業秘密の保持」とか「業務専念義務」とかを持ち出して録音を禁止されることが多いと思います。

 しかし、犯罪の被害者には犯罪が実行された証拠を保存するという権利が認められています。ですから、職場で名誉毀損・侮辱の発言がくりかえされている場合には、被害者はそれを録音していいのです。なんの問題もありません。もちろん、録音したものは最大限に慎重に扱う必要があります。証拠以外の目的で使用することは許されません。

 このような証拠が残っていれば、たとえ警察が動いてくれない場合であっても、民事裁判に訴えてパワハラ加害者と会社の責任追及ができますよね。現実には、職場のパワハラへの対処としては、警察に訴えるよりも民事裁判をおこしたり労働組合から会社に申し入れたりするほうが効果的なのです。

|

« 黙示の労働契約って、なんのこと? | トップページ | パナソニック全国総行動09夏 開始! »

パワーハラスメントを撲滅するために」カテゴリの記事

コメント

最近3人の看護師リーダーがパワハラでうつ病になって辞めさせられています。

投稿: naraken西の京病院 | 2009年9月11日 (金) 23時03分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/492777/30611329

この記事へのトラックバック一覧です: パワハラは警察に訴えてはいけないの?:

« 黙示の労働契約って、なんのこと? | トップページ | パナソニック全国総行動09夏 開始! »