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ルート・アイリッシュ 戦争の民営化の果てに行き着くところ

 映画「ルート・アイリッシュ」を見てきました。ケン・ローチ監督の新作です。

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 舞台は2007年のイギリスのリヴァプールの街です。イラクで死んでしまったイギリス人のコントラクター(民間人兵士)のフランキーの遺体が故郷であるリヴァプールに戻ってきて、教会で葬儀がとりおこなわれようとしていました。

 しかし、葬儀に参列したファーガスは何かがおかしいと感じ、いらだっていました。ファーガスはフランキーの幼なじみであり、イラクでの戦友でした。 フランキーが亡くなった日、イギリスにいるファーガスの携帯に残されていたフランキーからの留守番電話のメッセージの様子がなんともおかしかったからです。フランキーは何らかのトラブルに巻き込まれたようで、助けを必要としている様子だったのです。

 上の映画のポスターの画像の、一番右側がファーガス、その隣がフランキーです。

 フランキーの妻、レイチェルもいらだっていて、葬儀の場でファーガスに殴りかかります。フランキーをイラク戦争の現場に誘ったのは、他でもないファーガスだったからです。ファーガスはコントラクター(民間人兵士)の先輩で、仕事が無いフランキーに「イラクでいっしょに戦おう」と誘ったのでした。

 戦争につきまとう、悲惨だがどこかで聞いたことのある悲劇の一場面か、と思われた葬儀の場。しかし、ファーガスに一個の携帯電話が届けられたところから、謎が発生します。アラビア語が録音されている謎の携帯電話、それは生前のフランキーから送られたものだったのです。ファーガスとレイチェルは、二人でこの謎に向き合い始めます。死ぬ直前のフランキーにいったい何があったのでしょうか。何のために携帯電話をファーガスに送ったのでしょうか。

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 ファーガスは、在英イラク人ミュージシャンのハリムに携帯電話の録音・録画の翻訳をして欲しいと頼み込みました。ハリムがパソコンで携帯の動画を再生してみたところ、その携帯はイラク人の持ち物であったことがわかりました。そして更に動画を見ていくと、その携帯の持ち主がイギリス人のコントラクター(民間人兵士)に射殺される場面がはっきりと映っていたのです。動画にはフランキーが「おまえ、何やってんだ!民間人を殺してしまったぞ!」と叫ぶ姿も録画されていたのです。

 この携帯の動画は、たいへんショッキングな事件の決定的な証拠になるものでした。イギリスのコントラクター(民間人兵士)がイラクの罪も無い民間の一般人を殺害してしまったという、国際問題になるような大事件の証拠だったのです。

 フランキーが、この危険な証拠が録画されている携帯を殺害現場で拾ってしまったために、何らかのトラブルに巻き込まれたことは明らかでした。ファーガスは、とりつかれたように調査に没頭していきます。しかし、フランキーが死んだのは、この事件が起きた現場ではなく、まったく違う場所だったのです。

 フランキーが死んだ場所は、ルート・アイリッシュ(ROUTE IRISH)でした。

 ルート・アイリッシュとは、イラクの首都バクダッドにある高速道路の線の名前です。

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 上のバグダッドの航空写真を見てください。右側の赤線と川で囲まれた部分が、グリーンゾーンと呼ばれる、アメリカ連合占領軍の根拠地です。ここは、アメリカ軍やイギリス軍に完全に占拠され、一般のイラク人は入ることができません。そして、左の赤線で囲まれた部分がバグダッド空港です。この二つのエリアの間を結ぶ高速道路がはっきりと写っていますね。これがルート・アイリッシュ(アイリッシュ道)です。

 ルート・アイリッシュは、2007年当時、「世界で最も危険な道路」と呼ばれていました。アメリカやイギリスやオランダや日本の連合占領軍の拠点であるグリーンゾーンと空港を結ぶ高速道路、そこは連合占領軍の車輌が大量に行き交っていました。アメリカの侵略・占領に恨みをいだく武装勢力による爆弾攻撃や銃撃が毎日のように起こっていたのです。武装勢力といっても、本格的なイスラーム主義系軍事組織による大規模な爆弾テロから、そのへんのチンピラが銃を撃ってくるものまで様々でした。

 フランキーは、このルート・アイリッシュを自動車で移動中に正体不明の武装勢力に襲われて焼き殺されたのでした。それは、ルート・アイリッシュでは毎日のように起きている出来事であり、フランキーが危険な携帯を拾ってしまったこととは無関係に思えました。

 フランキーの上司は言います「彼は、悪い時に、悪い場所にいただけだ」。つまり、フランキーが死んだのは偶然だと言うのです。

 しかし、ファーガスは納得しません。現在もイラクにいる同僚のコントラクター(民間人兵士)に連絡をとって、携帯の事件に関わる事実経過を調べようとするのです。そして、このことが引き金でフランキーの同僚であるコントラクター(民間人兵士)の一人がいきなりイラクからイギリスに帰国してくるところから、物語は誰もが想像しなかった方向へと展開していきます。

 戦場であるイラクと平和なイギリスの社会。それは目に見えないが丈夫な壁で隔てられているはずでした。イラクでは当たり前な殺人や暴力や破壊は、イギリスでは決して当たり前ではなく犯罪として扱われます。ところが、戦争と狂気にどっぷりつかったコントラクター(民間人兵士)が越境してくる時、その壁はもろくも崩壊していきます。

 むき出しの暴力で日常が破壊されるとき、人の感情は混乱し、互いの行動はもつれあい、謎は解明されるかに見えながら更に深まります。

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 コントラクター(民間人兵士)というのは、憲法9条のある日本では、まったく想像もつかないほどなじみの薄い存在です。戦争行為が違法ではないアメリカやイギリスには民間軍事会社というのがあって、政府軍の下請けとして働いています。この民間軍事会社に雇われている傭兵がコントラクター(民間人兵士)です。イラク戦争では、戦争の民営化が進み、コントラクターが大量に投入されました。

 アメリカの言いなりだった当時のイラク政府はORDER17(命令17号)で「コントラクターがイラクの法律に反することをしても、一切とりしまらない」と決めていました。おかげで、彼らはイラクの民間人を殺してもまったく罰せられることがなかったのです。コントラクター(民間人兵士)がイラク人を殺害することが日常茶飯事になっていた当時のイラクの状況が、この物語の背景になっています。戦争の民営化がこれほどまでに恐ろしいものだったということが、ひしひしと伝わってきます。

 そして、結末は衝撃です。決して生半可な気持ちでは見ることが許されない映画ですが、戦争という人類最悪のストレスがもたらす精神障害の深刻さについて、深く考えさせてくれるはずです。

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