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ある労働組合の敗北からそれは始まった・キリマンジャロの雪

 映画「キリマンジャロの雪」を見てきました。

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 主人公は、フランスの港町マルセイユの港湾にある工場で働くミシェル・マルトロン。35年間働いてきて、職場の労働組合の委員長をつとめてきました。組合事務所の壁には「最低賃金を1000フランに」と大きくスローガンが書かれています。なかなか労働者のために頑張ってきた労働組合だったのです。

 しかし、ヨーロッパを覆う不況の中、ミシェルは労働組合委員長として苦渋の決断をせざるをえませんでした。それは、会社がつぶれるよりは整理解雇で何人かが退職するということを認めるという決断でした。

 「20人を解雇する」ということになったとき、ミシェルはその20人を公平にクジで選ぶことにしました。ミシェルは、職場のみんなの見守る中でクジをひきます。すると、その20人の中にミシェルの名前も入ってしまったのです。ミシェルの同僚であり義弟であるラウルは、「自分の名前ははずせたのに、なぜクジに参加したんだ?」と詰め寄ります。しかしミシェルは「特権は行使したくない」と応えます。そして職場を去っていくのです。

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 このとき、ミシェルは結婚30周年を迎えていました。家族や職場の元同僚たちは、結婚30年祝賀パーティーを港にある職場で開いてくれました。ミシェルは、解雇された20人も職場の仲間なのだから招待するようにと指示します。たくさんのロゼワインがふるまわれました。

 その場で、家族たちはミシェルと妻にアフリカ・ケニアへの観光旅行のチケットをプレゼントします。昔から行きたかったアフリカのキリマンジャロ。仕事と組合活動を引退したことで、やっとゆっくり夫婦で旅行できる時間ができたわけです。家族と職場の元同僚たちは、心からのお祝いにシャンソン「キリマンジャロの雪」を合唱します。

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 ところが恐ろしいことが起きます。ミシェルの家に二人組みの強盗が押し入り、ミシェルや妻やラウル夫妻を縛り上げて、現金とキャッシュカードを強奪していったのです。キリマンジャロへの旅行のチケットも奪われてしまいました。

 左腕を負傷し病院に通うミシェル。暴行されて大切な旅行チケットを奪われた心の傷は癒えません。ところが、ある日ミシェルはバスの中で偶然、二人の子どもが見覚えのある珍しいコミックブックを持っているのを見つけたのです。そのコミックブックはまぎれもなくミシェルのもので、あの日強盗が現金と一緒に持ち去っていったものだったのです。

 古いおんぼろアパートに帰っていく子どもたちのあとをつけるミシェル。そこは、ミシェルの元同僚クリストフの家でした。クリストフはミシェルといっしょに解雇された20人の中の一人だったのです。

 ミシェルは警察に通報し、クリストフは子どもたちがスクールバスに乗り込んだところを見計らって逮捕されます。

 日本のドラマなら、犯人が捕まって旅行チケットが取り戻されて夫婦二人がアフリカ旅行に出かけて、それでめでたしめでたしになるところです。しかし、この物語はここから更に深いところへと迷い込んでいきます。

 留置所にぶちこまれているクリストフに、ミシェルは会いに行きます。憎い犯人とはいえ、職場の同僚だからです。共犯者にそそのかされ騙されて反抗におよんだのだとミシェルは思いたかったのです。おだやかに話しかけるミシェルに対して、強い口調で反抗してくるクリストフ。「あんたの日曜が目に浮かぶ。脂ぎったステーキで、よく冷えたロゼを飲む、組合の金でな。腐りきった交渉や妥協を耐えたご褒美か、裏金をいくらもらった?」

 クリストフの言葉はミシェルの胸に深くつきささり、ミシェルは手錠をかけられ抵抗できないクリストフを思わず殴ってしまいます。それは、いかなる時にも人権を守ることを教え込まれたフランスの労働組合活動家としては恥ずべき動揺でした。

 また、クリストフの家にいる幼い二人の子どもたちも気になります。ミシェルは「自分に何ができるのだろうか」と、考え始めます。

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 そして、自分の敗北の原因を知った彼は、妻との新しい人生の始まりにも気づくことになるのです。

 男子正社員労働者の労働組合を必死になって闘いぬいて来た夫。その影には妻の存在がありました。妻マリ=クレールは、なりたかった看護師の仕事もあきらめて家政婦のパートで家計の補助をしながら、夫の組合活動を支えてきたのです。

 妻マリ=クレールもまた、「私に何ができるのだろうか」と自分の頭で考え始めました。それは、長年の夫の労働組合活動の中で、二人はどんな生き方を選んできたのだろうか、そしてこれからどんな生き方を選んでいくべきなのだろうかということです。

 さて、二人がどんな生き方を選んだかは映画を見ていただくとして、この映画のモチーフになっているシャンソン「キリマンジャロの雪」は、たいへん悲しくも美しい歌です。

 キリマンジャロの雪が白く輝く遠いアフリカを思うとき、今も続くスーダン内戦の泥沼の地獄を忘れることはできません。南スーダン独立は今のところ問題の解決にはなっていません。今、この瞬間も何万人もの人々が虐殺され家を奪われています。資源の争奪のためです。ゴリラやライオンをはじめ、多くの野生生物が資本主義の金儲けと戦争のために絶滅しかかっています。アフリカは、観光旅行で訪れるにはあまりにも自分の存在を切実に問われる場所なのです。

キリマンジャロの雪

その場所でおやすみなさい

あの雪がお前を白く覆う

もうすぐ彼は死ぬだろう

雪がこれほどきれいなことはない

そこでゆっくりおやすみなさい

眠りなさい眠りなさい

キリマンジャロの雪が

お前を白く覆う

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「キリマンジャロの雪 」★★★★☆ アリアンヌ・アスカリッド、ジャン=ピエール・ダルッサン、 ジェラール・メイラン、マリリン・カント出演 ロベール・ゲディギャン監督、 107分、2012年6月9日公開 2011,フランス,クレストインターナショナル (原題/原作:Les Neiges du Kilimandjaro ) 人気ブログランキングへ">>→  ★映画のブログ★どんなブログが... [続きを読む]

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