シリアで亡くなった山本美香さんの死を悼む
8月20日、シリア北部のアレッポの町でジャーナリスト(戦場カメラマン)の山本美香さんが亡くなりました。
私たちは、イラク戦争の頃から山本美香さんの報道に注目してきました。危険な戦場に近づいて、戦争で犠牲になっている女性や子どもたちの姿をビデオカメラに収めてくる山本美香さんの仕事のおかげで、多くの真実を知ることができました。
今回、山本美香さんがシリアの戦争の取材中に亡くなったというニュースを聞いて、信じられない思いでした。何かの間違いではないかと思いましたが、同行していた方が遺体を確認したという報道を聞いて、その現実を受け入れざるを得ないことを思い知らされました。
そして、私たちにとっては「いつのまにか」始まっていたシリア内戦で、一般市民が非常に危険な状況におかれているのだということに気づかされました。山本美香さんは、兵隊どうしが撃ち合いをしているだけのところには近づかず、一般市民の姿をいつも映像に納めていたからです。
ネット上では、「シリアの戦争のことを伝えるなんて、命をかけるほどのことじゃないよ」とか「同情できないね」などという、あげあしを取るような書き込みがなされています。なんと悲しいことでしょうか。もちろん、山本美香さんはそんな奴らに同情して欲しくてシリアに行ったのではないのです。
また、シリアの人々のことを何も知らないくせに、「政府に味方する中国やロシアが悪いのさ」とか、逆に「反政府勢力の連中が悪いのさ」とか、ものごとを単純化して知ったかぶりをするような書き込みもネット上にあふれています。そのような無理解な言葉を目にするたびに、私たちの心の傷はぱっくりと口をあけて血があふれ出すのです。
私たちは、山本美香さんがシリアにどんな思いで行ったのか、亡くなる直前にその目で何を見たのか、理解していかなければならないと思っています。その道程は始まったばかりです。
そのためには、パレスチナ・イスラエルの問題を理解することは前提だと考えます。シリアでは情勢は更に複雑で、アラウィ派とイスラームスンニ派との宗教対立の問題が根深くあります。歴史的に少数派で抑圧されてきたアラウィ派がフランスの植民地時代に支配層として権限を付与され、現在のアサド大統領の恐ろしい独裁体制を生み出してきた歴史があるからです。
チュニジア・エジプトのジャスミン革命がシリアに波及したとき、世襲制のアサド大統領独裁に反対し民主化を求める市民運動が始まったのです。それはシリアにも春をもたらすのではないかと思われていたのですが、国民を大量虐殺してもなんとも思わないというアサド軍事独裁政権による市民運動への弾圧がはじまってしまいました。それは、平和的な市民運動を崩壊させ、複数のイスラーム武装勢力が介入する内戦に発展してしまいました。
戦争の当事者は様々な「正義」を掲げていますが、犠牲になるのは弱い立場の女性や子どもたちです。私たちは山本美香さんのカメラが向けられたシリアの人々の生活や思いに寄り添いながら、シリアの行く末を見守っていかねばならないと思うのです。それは、今日も生きている私たちに課せられた重い課題なのです。
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