映画「標的の村」・涙なしでは見られません
ドキュメンタリー映画「標的の村」を見ました。泣きました。くやしくて泣きました。
琉球朝日放送は、よくぞ骨のあるドキュメンタリーを作ってくれました。ジャーナリストが沖縄には健在である事を示してくれました。
沖縄本島北部の東村(ひがしそん)にある高江(たかえ)。ここに住む人たちのことを描いたドキュメンタリーです。東村はパイナップル生産で有名な村ですね。
高江は、周囲を米軍の軍事訓練場に囲まれている集落です。自然の美しい村です。しかし、ひっきりなしに米軍ヘリコプターが飛んできて村の上空を低空で旋回します。
ところが、2006年になって米軍はこの訓練場の中に高江の集落を囲むようにして新たに6箇所の「ヘリパッド」を建設するという計画を発表したのです。ヘリパッドとは、ヘリコプターの離発着場のことです。ヘリコプターは滑走路がいらないので、「飛行場」と呼ばずに「ヘリパッド」と呼ぶのです。
なぜ、米軍基地の縮小が検討される今頃になって新たなヘリパッドなのか、しかも高江の集落を囲むようにして建設するのか、村人たちは疑問に思いました。最も近い民家とは600メートルしか離れていません。2007年、村人たちは米軍施設の窓口である「防衛施設局」に正式に抗議しました。
ところが、防衛施設局は何の説明もないままに一方的に工事を始めようとしたのです。村人たちは、防衛施設局の担当官や工事業者に説明を求めました。しかし、あいかわらず説明はありません。村人たちは、米軍訓練場のゲート前に座り込んで、納得のいく説明をするまでは工事をさせないという抵抗運動を始めました。
すると、あろうことか防衛施設局は、村人たちを「道路交通法違反」で告訴したのです。告訴された住民の中には、ゲート前にいなかった7歳の少女の名前までありました。
村人の中には、50年前、1960年代の「ベトナム村」のことを思い出す人もいました。当時ベトナムを侵略していたアメリカ軍は、高江の集落の近くの訓練場の中にリアルな「ベトナム村」を作って、そこに攻め込む訓練をしていました。
ベトナム村では、ベトナム人の住民の役割として、高江の住民たちが子どもたちも含めてかりだされていたのです。アメリカ軍は、高江の住民をベトナム人に見立てて生きた標的として使っていたのです。そして今も高江上空では米軍ヘリが高江集落を軍事的な標的として使っているのです。
2011年、アメリカ軍は、高江周辺に新設されるヘリパッドにやってくるのは新型米軍機「オスプレイ」であると発表しました。それで、村人たちも合点がいきました。新たなヘリパッドは新たなオスプレイ配備のためだったのです。
しかし、オスプレイは次から次へと墜落して死傷者が出ている危険な新型機。村人たちは、なおさらヘリパッドの建設を許すわけにはいかないと思いました。
沖縄の誰もが、オスプレイの沖縄への配備に不安を感じ、怒りを抱いていました。2012年の9月30日に沖縄の普天間基地にオスプレイが配備されるという計画が政府から発表されると、怒りの声は政党の考え方や利害関係をこえて全県民にひろがりました。
9月9日にはオスプレイ配備反対沖縄県民大会が10万人で開催されました。自民党から共産党まで、あらゆる政党の議員、すべての市町村長が参加しました。その場でも、高江のヘリパッド建設反対の住民運動への応援の声が広がったのです。
しかし、オスプレイはまず山口県に水揚げされました。そしていよいよ9月30日に沖縄への配備が強行されようとしました。
前日の9月29日、突然、普天間基地のゲート前にたくさんの沖縄の人たちが集まってきました。オスプレイに抗議するためです。米軍はゲートを閉めて、沖縄住民の声をシャットアウトしました。住民たちは、そのまま米軍ゲート前で座り込んだのです。自動車も持ってきてゲートを封鎖してしまいました。
そして住民たちは、ケータイで連絡を取り合いながら、普天間基地のすべてのゲートを封鎖してしまったのです。これには米軍兵士も真っ青です。
やがて、翌日30日になり、沖縄県警察の警官たちが出動して座り込む住民たちの実力排除を開始しました。
住民たちだけではなく、取材していたテレビ局のカメラマンまでもが取り押さえられて連れて行かれます。沖縄県民がみんな反対しているオスプレイ配備。しかし、オスプレイ反対の住民を乱暴に引きずり出していくのも沖縄県の警察官。
涙なしでは見られません。ぱっくり開いた傷口が、激痛でうずきます。
沖縄がこんなことになっていたなんて、この映画を見るまで知りませんでした。本土では、誰もうわさにすらしませんでした。
沖縄へのオスプレイの配備が、こんなに沖縄の人たちの心を土足で踏みにじって強行されたものだったことに、愕然としました。
オスプレイの第一陣は沖縄に来てしまいました。しかし、それで終わりではありません。高江のヘリパッドが一箇所しか出来上がっていないので、オスプレイは本格的な訓練に入れていません。一方で、高江住民を訴えた「道路交通法違反」事件の裁判は今も続いています。高江の住民の抵抗運動は、まだまだ続くのです。
どうか、高江の美しい自然が守られますように。どうか、高江で暮らす子どもたちの願いがかないますように。願ってやみません。
そして、私たちに何ができるのか、おおいに考えさせられます。
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