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あなたの犯行を映画にしませんか? アクト・オブ・キリング

 ドキュメンタリー映画の超問題作「アクト・オブ・キリング」を見てきました。

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 「殺人犯自身による犯行のドキュメント映画の作製」という、人類史上まれに見る映画が、ついに日本でも公開されたのです。 「アクト・オブ・キリング」(The act of killing)とは、「殺人の演技」という意味です。

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 映画の主人公、アンワル・コンゴはインドネシア人。二人の孫をかわいがる優しいおじいちゃんです。ところが、アンワルは50年前に1000人もの大量殺人を行なったという経験があるのです。

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 映画監督のジョシュア・オッペンハイマーです。彼がアンワルと出会い、「あなたが過去に行なった殺人事件のドキュメンタリー映画を作ってみませんか」という提案をしてみたことから、この映画はできあがりました。

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 アンワルは、1965年当時は映画館の前の路上でダフ屋を営むチンピラでした。ハリウッド映画が大好きでした。ですから、自分を主人公にした映画を作るという話に大賛成し、のりのりで映画撮影を始めたのです。

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 アンワルは、当時いっしょに殺人を行なった仲間を呼び寄せ、いっしょに映画を作り始めます。出演者はみんな、当時かなりの人数を殺害した経験のある殺人犯ばかりなのです。

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 殺人犯ばかりが集まって映画を作るので、被害者役も自分たちでしないといけません。特殊メイクもばっちりです。アンワルは、最初の撮影画像を見て「白髪頭じゃ見ばえがしない。黒く染めなきゃ」と、カメラ映りにもこだわります。

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 アンワルは、当時の殺害現場を訪れ、「こうやって殺したんだよ」と実演してみせます。「最初は棒で殴り殺したのさ。そしたら血が飛び散って汚れるもんだから、針金で絞め殺すことにしたのさ。ギャング映画を見て、それをヒントにしたんだ。」とアンワルはカメラに向かって語ります。

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 なぜ、アンワルは1000人もの人を殺害したのでしょうか。それは、1965年10月から1966年3月にかけて、インドネシア全土で200万人もが殺害された「9・30事件」にアンワルが参加していたからです。

 「9・30事件」で軍事力を背景に政府の実権をにぎった独裁者スハルト将軍は「共産主義者は国の敵だ。皆殺しにしてかまわない」と軍隊だけではなくヤクザ組織までも動員して「共産主義者狩り」を行いました。「共産主義者ではないか」と疑われた人をかたっぱしから拉致して拷問し、「やっぱり共産主義者だ」と判定されたら殺害する。判定するのは共産党と対立していた政治グループの親分です。そして死刑執行人がチンピラであったアンワルの役目だったのです。

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 アンワルは、冷酷な殺しの腕を買われて、「共産主義者村の皆殺し作戦」にまで参加しました。カンプン村という田舎の村に共産主義者がたくさんいるという情報が入ったので、ヤクザ集団であるパンチャシラ青年団を引き連れて「皆殺し」に行ったのです。

 今日は、そのカンプン村皆殺し作戦の場面の撮影です。

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 パンチャシラ青年団は今もインドネシアに存在し活動をしています。政府与党の政治集会は金で雇われたパンチャシラ青年団であふれています。そんな現役のパンチャシラ青年団も皆殺し場面の撮影に参加したのです。そして、その中には、現在政府の要職を務めている人物までもがいます。そしてマイクを持って叫びます。「共産主義者を撲滅せよ!」

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 アンワルの演技にも気合いが入ります。当時のことを思い出し、「殺せ!殺せ!」と絶叫します。

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 殺される村人の役を演じるのはパンチャシラ青年団の家族たちです。女も子どもも引きずり出されて殺されてしまいます。そして家には火が放たれ、村は燃え尽きてしまいます。

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 アンワルが映画を作っているということが話題になり、国営放送のバラエティ番組でも放送されました。アンワルとパンチャシラ青年団の人たちがスタジオに呼ばれ、アナウンサーの女性がアンワルを笑顔でほめちぎります。スタジオには生首のオブジェまで飾られています。

 このことからもわかるように、インドネシアではアンワルがかつて1000人を殺害したことはまったく罪に問われません。当時の独裁者スハルトの意を受けてやったことだからです。逆に、スハルト将軍のもとで反逆者を粛清した英雄だとされているのです。

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 アンワルの作る映画は、やがて天国の場面へと進みます。美しく感動的な天国の場面。しかし、それを演じるアンワルの心の中に、変化が起きてきます。自分が実行した殺人を再演してみて、また被害者役もやってみて、アンワルは自分の行為をあらためてとらえかえすのです。

 なぜ、自分が悪夢を見るのか。夢の中に殺したはずのヤツがあらわれてじっとこちらを見つめているのか。その理由が少しずつわかってくるのです。

 そして、「共産主義者は残酷だって宣伝してたけど、残酷だったのは俺たちの方だよな」とつぶやくのです。

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 アクト・オブ・キリングの試写会に参加したデヴィ夫人です。デヴィ夫人の夫、スカルノ元大統領は、独裁者スハルトによって政権から引きずり下ろされました。ですから、200万人が殺害された当時、デヴィ夫人もねらわれて身の危険を感じていたのだそうです。「共産主義者は国家の敵だ」という建前のもと、ちょっとでも気に入らない人物はかたっぱしから「共産主義者」のレッテルをはられて殺されたのです。

 デヴィ夫人は、当時の日本政府自民党政権が大虐殺を実行した独裁者スハルトに肩入れしていたことを告発します。大量殺人の責任のいったんは、見て見ぬふりをしてきた日本政府にもあるというのです。

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 この映画を見ると、ふだんは人殺しなどするはずがない普通の人でも、ある状況のもとでは平気で人殺しをするようになるのだということがよくわかります。「殺していい。殺せ。」という社会風潮ができてしまった時、人の心のタガがはずれて残酷な部分が表にでてくるのです。

 考えてみれば、今の日本だってそうです。職場で残酷なパワハラを行なっているパワハラ実行犯も、家に帰れば普通の人なのかもしれません。ごく普通の人が、「あいつはいじめていい。あいつをいじめろ。」という職場内の権力の意向と風潮の中で、パワハラという犯罪に手を染めているのです。いじめられた人は精神疾患になったり退職に追い込まれたり自殺したりしています。パワハラも殺人と同じ凶悪犯罪なのです。パワハラをとりしまる法律がない事が、そんな社会の土壌となっています。

 私たちも、いつ「殺す側」になるかわからない。そんなことを考えさせられた映画でした。

 

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