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映画「チスル」・済州島4・3事件で村人達が見てしまった不条理

 1948年に現実に起きたチェジュド(済州島)4・3事件を初めて描いた映画「チスル」を見ました。

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 この映画には説明がほとんどありません。たちこめる白い煙、耳障りな包丁をとぐ音、映画は何が映っているのかまったくわからない場面から始まります。何が始まったのだ?見るものに戸惑いの心がわいてきます。

 殺すものは何のために殺さなければならないか解からず、殺されるものも何のために死んでいかなければならないか解からなかった。それがチェジュド4・3事件です。この映画は、余分な説明をいっさい省略して、事件に巻き込まれていった村人や兵士達の見たままを映像として映し出すことで、このチェジュド4・3事件の不条理さを表現しようとしたようにも思えます。

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 ご存知の方も多いと思いますが、韓国の南にあるチェジュド(済州島)のハルラ山は世界文化遺産にも登録されています。今では、チェジュドは観光客でにぎわう美しい島です。旅行社に行けばチェジュドのきれいな観光パンフレットがたくさん積んであります。

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 そのハルラ山で、今から65年前の1948年に3万人もの住民が虐殺されたのです。「海岸線から5キロメートル以上離れた山間部にいる者は全員を暴徒とみなして殺せ」こんな命令が、当時韓国を統治していたアメリカ軍政によって発表されたのです。韓国本土から送り込まれた韓国軍がアメリカ軍の下請けとして掃討作戦をさせられました。

 「暴徒」や「アカ」(共産主義者)とレッテルを貼られて虐殺された人たちのほとんどは、先祖代々その土地に住んでいた普通の農民だったのです。しかし、家にいたら軍隊がやってきて殺されると聞いた農民達は、冬山の洞窟へと着の身着のままに避難するのです。

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 一方で、韓国本土から動員されてきた兵士達も苦悩していました。どう考えても罪の無い人たちを殺さなければならない、それができない兵士は凍える中で食べ物ももらえず、上官から非人道的な罰を与えられます。

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 兵士達は、雪の中を逃げ回る村人達を一人、二人と捕まえていきます。捕まったが最後、拷問されて仲間の居場所をしゃべるよう強要され、なぶり殺しにされてしまうのです。アヘンに犯されて頭がおかしくなった軍の上官の暴虐ぶりはエスカレートしていきます。

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 「チスル」とは、漢字で書けば「地実」。チェジュドの方言でじゃがいものことです。洞窟へ避難する家族におばあちゃんが「ジャガイモを持っていきなさい」と言い、村人達はジャガイモで飢えをしのぐのです。ジャガイモは、地に埋もれるようにして生きてきた貧しい農民の姿そのものなのかもしれません。

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 やがて、韓国軍の皆殺し包囲網は、村人達がひそむ洞窟へも迫ってきます。この映画は、4・3事件の時に実際に村人達が避難したという洞窟でのロケも行なわれました。チェジュドの美しい自然の風景の中で、身の毛もよだつような恐ろしい事件が実際にあったのです。

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 映画の中では、不思議な人物が印象に残ります。水がめを背負ったなぞめいた兵士です。これはチェジュドの古い民話に出てくる水汲みをする母親からヒントを得たものだそうです。

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 殺伐とした事件を題材にした映画ですが、チェジュドの慰霊の法事の作法にのっとったストーリーになっていて、死んだものと生き残ったものの魂をなぐさめたいという映画監督オ・ミョル氏の願いを強く感じました。

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