自民党の改憲案では本当に徴兵制はないのか
次のようなご質問をいただきました。
自民党の改憲案では、徴兵制が行われると聞きました。本当ですか。
これは、なかなか難しい質問です。労働基準法や労働組合法には詳しい私たちですが、憲法論となるとかなりハードルが高いのは事実です。
しかし、憲法はあらゆる法律の土台なので、憲法が変われば日本で暮らす私たちの「働き方」も変わってきます。「兵役」という仕事を個人の志願ではなく国の強制によって行う「徴兵制」は、改憲に伴う「働き方」の変化をよく表しているように思います。避けては通れない問題なのではないでしょうか。考えてみましょう。
改憲を実行したいと長年考えてきた自民党は、改憲を機になんとか徴兵制を実現させたいと綿密に検討してきました。自民党改憲推進本部長の船田元氏も、テレビ番組のインタビューの中で、改憲によって徴兵制が行われることはありうると回答していました。
しかし、最近の国会での安倍シンゾーsorryの答弁を見ていると、「自民党の改憲草案でも徴兵制は認めていない」と言っているのです。
自問党内部で、発言の食い違いがあるわけです。これはどういうわけでしょうか。
現在の日本国憲法で徴兵制が認められていないのは、憲法9条で戦力の保持が認められていないことに加えて、憲法18条があるからです。
現行憲法・第18条
何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。
ここに書いてある、「奴隷的拘束」や「その意に反する苦役」が徴兵制に該当するので、徴兵制は認められていないのです。
これが、自民党改憲案ではこうなっています。
改憲案・第18条(身体の拘束及び苦役からの自由)
1 何人も、その意に反すると否とにかかわらず、社会的又は経済的関係において身体を拘束されない。
2 何人も、犯罪による処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。
自民党は、これは同じ内容なのだと説明しています。現行憲法の18条も、改憲案の18条も、同じ内容なのだと言うのです。だから、これまでも否定されていた徴兵制が、改憲によって行われることは無いのだと説明するのです。
では、なぜ文章表現を変える必要があったのでしょうか。内容が変わらないのなら、文章を変える必要は無かったはずです。気を付けましょう。実は、微妙に表現を変えることによって、徴兵制を可能にする屁理屈をすべりこませる余地を作っているのです。
よく読んでみてください。現行憲法では「いかなる奴隷的拘束」と書いてあるところが、改憲案では「社会的または経済的関係において身体を拘束」に置き換わっています。何が違うのでしょうか。
改憲案では「社会的」や「経済的」な拘束は否定されるのですが、「政治的」や「軍事的」な拘束は否定されないのです。そこが「いかなる奴隷的拘束」という表現と違うところなのです。徴兵制は「政治的」「軍事的」拘束だからOKになるのです。
「その意に反する苦役に服させられない」という条文は変わっていないから、徴兵制はやはり認められないのではないかという人もいます。
これについては、実は改憲案の他の部分を見ないとわからないのです。
改憲案ではこういうことが書かれています。
第9条の2(国防軍)
1 我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、内閣総理大臣を最高指揮官とする国防軍を保持する。
3 国防軍は、第一項に規定する任務を遂行するための活動のほか、法律の定めるところにより、国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動及び公の秩序を維持し、又は国民の生命若しくは自由を守るための活動を行うことができる。
第9条の3(領土等の保全等)
国は、主権と独立を守るため、国民と協力して、領土、領海及び領空を保全し、その資源を確保しなければならない。
第12条(国民の責務)
この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力により、保持されなければならない。国民は、これを濫用してはならず、自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し、常に公益及び公の秩序に反してはならない。
第25条の3(在外国民の保護)
国は、国外において緊急事態が生じたときは、在外国民の保護に努めなければならない。
わかりますか。改憲9条によって、自衛隊とは全く異なる国防軍の設立が行われ、国防だけではなく国際的活動(日本とは直接関係ない地域への海外派兵)が可能になります。
そして、改憲9条の3によって、領土領海等の保全は国民が協力するものとされているのです。
改憲25条の3では、外国での紛争に対して「在外国民の保護」のために国防軍を派遣することが定められています。ロシアがクリミアに軍事侵攻した時も「在外ロシア人の保護」が名目でしたから、同じことを日本もするわけです。
そして、改憲12条では、「国民は公の秩序に反してはならない」とわざわざ書いてあるのです。
これらの条文から、徴兵は「意に反した苦役」にあたるはずがないという解釈が成立するのです。
徴兵を「意に反した苦役」だと感じるような感じ方は日本国民の感じ方ではないし、徴兵を「意に反した苦役」だと主張するような奴は日本国民ではないという解釈です。
人の感じ方にまでもワクをはめて規制しようというのが、自民党改憲案の特徴です。これは、現在の日本国憲法にはまったく存在しない考え方です。
これらのことから考えて、自民党の改憲案はやはり徴兵制の復活を狙ったものと考える方がよさそうです。
だとすると、「改憲しても徴兵制は無い」という安倍シンゾーsorryの主張は真っ赤なウソということになります。だまされてはいけませんね。
これから考えられている徴兵制は、70年前の国民皆兵的な徴兵制ではありません。経済的徴兵制と言って、貧困者だけが兵役を科せられるという徴兵制です。お金持ちは徴兵されることがないのです。
すでに検討されているのは、奨学金を返すのを滞っている人に無理やり兵役を科すという内容です。金が返せないのなら死んでくれということですよね。
戦争になっても、貧困者だけが戦場に行き、兵器を作って売るような金持ち連中はのほほんとして私腹をこやすというようなことになりかねません。
どんな世の中になるんだろう、この国。
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