現実vs虚構 現実的に見えた物が実は虚構だった シン・ゴジラ
「現実vs虚構」と書いて、「ニッポン対ゴジラ」と読ませるのが、シン・ゴジラのキャッチコピーです。何が現実か、何が虚構か、境界がわからなくなるのがシン・ゴジラという映画です。そして、ついにトランプ大統領が東京にいるゴジラを核攻撃することを発表したというニュースまで飛び込んできました。
シン・ゴジラでは、ゴジラの襲来で被害を受けるたくさんの人たちの描写があります。しかも、その他大勢のエキストラではなく、重要な人物として登場します。
ゴジラ登場による海底トンネル崩落からの避難者として登場する元AKB48の前田敦子です。
ゴジラに体当たりされて倒壊するマンションの中で逃げ遅れた家族のようすもしっかり描かれています。「あっ、あかん!」思わず目を覆ってしまう恐怖のシーンです。
虚構ではありますが、広域避難する避難民を乗せたたくさんのバスで道路があふれ渋滞する様子や、避難所の様子も描かれ、リアリティがあります。
上は、2011年の東北大震災・原発事故の直後の現実の避難所の画像です。最近では熊本の震災など、頻繁に避難所の様子を目の当たりにするし、誰もが自分もいつ避難所暮らしになるかわからないという不安を抱きながら生活しています。
だからこそ、ゴジラの襲来がリアルな恐怖となって感じられるのです。
シン・ゴジラに登場するゴジラは、餌を食べている様子がありません。餌を食べないのにみるみるうちに大きくなっていくのです。
虚構のストーリーの中で、ゴジラは体内で元素変換を行っているのです。これは、ゴジラの周辺から、これまで存在しない新元素の放射性物質が検出されたことから判明しました。ゴジラの細胞膜では、核分裂だけではなく核融合までもが行われているようなのです。
現実の科学の世界では、いまだに合成されていない新元素が存在することが予言されています。それは「安定の島」と呼ばれている元素です。ゴジラは、「安定の島」の元素を体内で作りだしているものと思われます。
ゴジラが作り出す新しい放射性物質は半減期が20日だと言われています。20日ほどだから早く放射能が消えてくれて安心だという話になっているのです。
しかし、ゴジラの生態から考えてゴジラは新元素だけではなく、あらゆる種類の放射性物質を作り出しているはずです。半減期2万年というような放射性物質もまき散らしているはずです。そうたやすく安心することはできないのではないでしょうか。このあたり、シン・ゴジラがちょっとウソっぽく感じられる点です。
シン・ゴジラは会議の場面が多いことも特徴です。突然のゴジラ出現に政府がどう対処したか、この側面だけでストーリーが展開していくので、政府機構内部での会議が出てくるのは、ある意味で当然です。
科学者の権威が会議に呼び出され、総理大臣から「あの生き物はなんなんだ?」と聞かれても、のらりくらりと「わからない」としか答えず、総理大臣が「御用学者はダメだ!」と吐き捨てるように叫ぶ場面があり、笑ってしまいます。
官僚たちは自分の省庁の利害のことしか頭にないため、会議をいくら開いても話は進みません。福島原発事故の時に民主党政権が迅速な対応を取ることができなかったことが思い出されます。
ゴジラ対策を実行したのは巨災対(巨大不明生物災害対策本部)の科学者たちですが、ここでは民主的な討論が保証されていました。各自が出身組織のしがらみを離れて自由に意見を述べ合うことが許されていたのです。新しい発想がどんどん出されて、試されていきました。
また、巨災対はゴジラに関する情報を機密扱いせず、すべてネット上に公開していました。世界中の研究機関や科学者の英知に協力を求めるためでした。
巨災対は新しい民主主義の形を切り開いたと言えるでしょう。凝り固まった組織の古い官僚主義を取り払い、自由に共同知を組み上げることに成功することができたのです。民主主義の新しい形態を作り上げるうえでのコニタリアートの役割の重要さを感じます。
「民主主義とは官僚主義のことである」という古臭い観点からは、官僚主義を打ち破って強力な独裁者を崇め奉ろうという発想が出てきたりします。シン・ゴジラは、それが誤りであることを描いたのだと思います。
現実の日本の政治が、あいかわらず古臭い官僚主義と、マスコミ統制などの独裁的手法で行われていることは、誰もがうんざりしていることです。
TPPによる農業破滅、マイナス金利による経済破綻、南海トラフ地震による新たな原発災害、人々の安全に関わる情報はいまだに隠されてしまい、「ゴジラは上陸しない」と政府は国民をだまし続けています。
シン・ゴジラで「リアリティがある」と言われたのは自衛隊の登場シーンでした。現実の世界でシン・ゴジラを自衛官募集のポスターに使うなど、自衛隊はちょっと悪乗りしすぎな感じです。
自衛隊の無線通信の切迫したやりとりが、虚構であるはずのゴジラ対決シーンに大きな緊張感を与えていたと思います。無線通信の自衛隊用語のリアルさは、迫真のものがありました。
それはそれで怪獣映画rとしてはいいのです。しかし、リアルに見える自衛隊の姿そのものが虚構であり、現実の自衛隊とは違うということ。このことには、よく注意を払わなければいけないと思います。
現実に自衛隊が直面するのは、巨大不明生物ゴジラではありません。現実に自衛隊に入職する人が「俺はゴジラから日本を守るんだ」とか言っていたとしたら、かなりおかしいわけです。
今、自衛隊が直面している問題は、南スーダンでの駆けつけ警護です。「駆けつけ警護」というと警備の仕事のようにも思えますが、実態は「敵軍への攻撃を伴う救出行為」という意味です。
2011年にスーダンから独立した南スーダンは、大統領派と副大統領派の二つの政治勢力が、内戦を行っている状況です。秩序も無く、法律も無く、国の権威は地に落ち、暴力と殺人とが日常になっています。
南スーダンは石油が取れるので、その利権争いが国を二分する内戦にまで発展してしまったのです。
政府軍(大統領派)は、兵士や民兵が民間人の女性をレイプすることを正式に許可しています。なんていう大統領でしょうか。
避難所が多数の兵士たちにおそわれ、女性たちが拉致されていきます。ものすごくたくさんの女性たちが被害に苦しんでいます。
驚くことに、政府軍も反政府軍も、小さな子どもたちを拉致しては殺人の仕方を教え込み、少年兵として奴隷のようにこき使っているのです。
小さな子どもたちに銃を持たせることは、国際条約で禁止されていることです。しかし南スーダンではそれが当たり前になっているのです。
政府軍が襲ってくるか、反政府軍が襲ってくるか、まったくわかりません。子どもが銃を向けてくるかもしれないのです。そんなところで「駆けつけ警護」をすることが、自衛隊の任務になってしまいました。
ゴジラに対しては、機関銃や大砲は何の役にもたちませんでした。実は、地域紛争の場合も同じなのです。正体不明の武装勢力が襲ってきて、政府軍なのか反政府軍なのかすらわからない状態で射撃をすれば、結局は泥沼の戦争を拡大することになってしまいます。
機関銃を持った自衛官が行くよりも先に、政情安定化のためにできる他の道があるはずです。石油利権を後押しする外国の金持ち連中や、武器を売りつける死の商人どもを止めることを考えなければいけません。
「現実vs虚構」。
人間が作り出した原発。人間が作り出す戦争。現実に私たちが直面する怪物は、ゴジラよりもはるかに対処が難しいのではないでしょうか。シン・ゴジラのラストシーンは、「本当の怪物は人間である」ということを暗示しているようにも思えます。
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コメント
シンゴジラには、国会デモが聞こえてくる場面がありました。デモがうるさいもののようでした。脱原発運動や戦争法反対運動を軽く思ってるように思います。
投稿: ココナツ | 2016年11月14日 (月) 21時10分
ココナツさん、ブログを見ていただき、コメントをいただき、ありがとうございます。
最初のゴジラの上陸のあとで、国会周辺にデモが押し寄せ、その声が官邸内に聞こえてくる場面のことですね。
何と言っているのか、たいへん気になったのです。ゴジラの出現でデモをする人は何を要求するのか、考えてみたこともなかったからです。しかし、「ゴジラを〇〇」とは聞こえるのですが、どうもはっきりと聞き取れません。
調べてみたところ、映画の撮影に参加した方のブログによれば、「ゴジラを守れ」と「ゴジラを倒せ」の二つを叫ぶ声が混ざっているのだそうです。
つまり、国会周辺には互いに対立する二つのデモが発生していることになります。環境保護を大切に考える人や、自衛隊の出動に反対する人は「ゴジラを守れ」と叫ぶでしょう。また、実際に被害にあった人は「ゴジラを倒せ」と叫ぶでしょう。
これは、確かにありうることかもしれません。世論が真っ二つに割れていることの表現として、デモが描かれたのではないでしょうか。
投稿: みるめ | 2016年11月15日 (火) 19時23分
南スーダンの内戦には、武器の供給を凍結させるヤシオリ作戦でのぞむしかないですよ。武器で攻撃しても無限に増殖するだけ。
投稿: 八岐大蛇 | 2016年11月17日 (木) 23時03分
八岐大蛇さん、ブログを見ていただき、コメントをいただき、ありがとうございます。
戦争をしている連中に銃を売りつけてもうける連中がいることを考えると、本当に腹が立ちます。
日本の軍事産業も、世界に武器を売ってもうけようと動き始めています。他人を不幸にする商売で飯を食うなんて、寒気がするほど気持ち悪いやつらです。
南スーダンの戦争が早く終わることを願うばかりですが、現地情勢を見る限り、もはや自衛隊には活躍できる場は無いです。
投稿: みるめ | 2016年11月18日 (金) 21時07分