戦争の時代を生きた女性のリアルな日常生活・アニメ映画「この世界の片隅に」
アニメーション映画「この世界の片隅に」を見てきました。70年前の戦前・戦中を生きた広島の女性の日常生活を丹念に描いた画期的な映画です。なんでこれまでこんな映画が無かったのか、よくやってくれた、そう思いました。
主人公すずを演じた俳優の「のん」(あまちゃんの主役を演じた能年玲奈)の声の演技が、ものすごく良かったのです。あまちゃんでは岩手弁でしゃべっていた「のん」ですが、今回はきれいで暖かな広島弁です。
ちょっと不思議なすずの性格を見事に表現した「のん」の演技によって、「この世界の片隅に」は画竜点睛、傑作の領域に達したのだと思います。
主人公すずは、広島の海岸にある海苔を養殖する家に生まれました。できあがった海苔を届けに広島の繁華街を訪れ、「ばけもの」にさらわれて迷子になったりします。
すずは、絵を描くのが好きな女の子でした。その描き出す絵は、夢も現実も入り混じって、すずの心の奔流なのです。
1944年の春。18歳で、呉の軍法会議事務部で働く男性、周作のところに嫁入りします。当時の結婚は、女性側は何もわからないままに「もらわれていく」ことが多かったのです。すずも苦労して、髪の毛が抜けてしまいます。
戦争が進む中で、物資は底をついていきます。「欲しがりません勝つまでは」「ぜいたくは敵だ」と言われ、自由に食料を購入することもままならず、配給される食料もどんどん減っていきます。家事労働をまかされたすずは、食べられる野草を探してきては一家のご飯を作ります。
絵を描くのが好きなすずは、主婦になってからもノートに絵を描きつづけます。ある日、呉軍港に停泊中の海軍の軍艦を描いていて、「間諜(スパイ)だ!!!」と憲兵にこっぴどく怒られてしまいます。絵を描くことも自由にならない時代だったのです。
呉は、横須賀、佐世保、舞鶴と並んで海軍の一大拠点でした。出撃前の戦艦大和も現れます。それは、基地の街、呉に戦争の炎が否応なしにやってくるということを意味していました。
そして、呉の日本軍基地へのアメリカ軍の攻撃が始まります。空襲警報が毎日のように発令され、戦闘機が飛び、空爆は激しくなる一方です。
たとえ戦争中でも、人間は生きていかないといけません。すずは毎日毎日を懸命に生きていきます。すずは、よく独り言を言います。なにげない言葉の中に、戦争の時代を生き抜く女性の悲しみやせつなさがにじみ出てきます。
この映画は細部に至るまで現実に忠実に描かれています。リアルな時代考証を積み重ねて再現された、戦時中の日本の庶民の生活。その頭上にばらまかれる爆弾、襲い掛かる激しい鉄の暴力と生々しい傷。
どんな理屈をつけても、戦争はしてはいけないものだと感じました。
原作はコミック3巻なので、2時間の映画では描き切れない部分もあります。細部にわたってリアルな描写が続く映画だからこそ、描き切れない部分も気になってきます。例えば映画ではちらっとしか映らなかったテグッキの意味合いは、原作を読んではじめてつかむことができそうです。
ぜひ、原作のコミックを読みたいなと思いました。
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