うつ病は業務災害・公害だ

ストレスチェックって、回答しないといけませんか

 次のような質問をいただきました。

 職場で、ストレスチェックのアンケート用紙が配られたんですが、上司とうまくいってるかみたいな質問もあって、これって回答しないといけませんか。

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 ストレスチェックは、労働安全法の改正によって、昨年12月から日本中の企業で行われるようになったものです。50人以上の労働者がいる事業所では、実施が義務となっています。

 目的は、職場での精神的ストレスによるメンタルヘルスの不調、つまり「うつ病」などの精神疾患の発病を、未然に防ぐことです。

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 アンケート用紙には、職場ストレスがあるかどうかをチェックするような質問が並んでいます。また、ストレスによる身体反応の有無をチェックするような項目もあります。チェック項目は、厚生労働省の定めた項目を網羅しているはずです。

 企業によって追加で質問項目を増やすことはできるのですが、労働者のプライバシーに関わるような余計な質問をすることは禁じられていますので、どこの企業でもほとんど厚生労働省の既定の項目で実施するものと思われます。

 たしかに、上司とうまくいっているかどうかに関わるような質問項目もあります。誰でも経験があることだと思いますが、職場ストレスって上司の言動によって左右されるところが多いからです。

 上司が適切なサポートをしている場合には、業務そのものはきつくても精神的ストレスがたまっていくことがありません。逆に、上司がパワハラ上司なら、それだけで仕事に行くのが地獄になってしまいます。

 ですから、ストレスチェックの結果を上司に知られるのかどうかを気にする人もいます。上司に知られたら職場の人間関係にヒビが入るのではないか、そう心配するのも無理はありません。

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 ストレスチェックのアンケート結果は、集計されて本人に通知されます。どれくらいストレスがあるか、自分で知ることができます。そういう意味では、ストレスチェックは本人にとっていいことです。

 また、結果が通知された時に、「この結果を会社に伝えていいですか」という質問用紙も届くはずです。「伝えていい」と返事すれば、直属の上司も含めて会社の上層部に結果が知られることになります。「伝えてはいけない」と返事すれば、上司に結果が知られることはないはずです。

 ストレスチェックの回答内容や集計結果は、本人の個人情報です。それを会社上層部に伝えるかどうかは、本人の意思が尊重されることになっています。

 また、あきらかにストレスが高くて、危険な状態になっているという判定が出た場合は、ストレスチェックの実施者から直接に電話がかかってくることがあり得ます。専門家の面接を受けた方がいいですよと勧めるためです。専門家との面接を希望するなら申し込んだらいいし、希望しないなら申し込まなければいいのです。ただし、専門家の面接を申し込んだ場合には、会社上層部にも情報が伝わることになります。

 ですから、ストレスチェックを受けて、その結果を上司に非通知にすることは可能です。

 また、非通知にすること自体がまずくて、どうしてもストレスチェックを受けたくないという人は、回答を提出しなくてもいいのです。「回答しない」と記載して用紙を返せばそれですみます。ストレスチェックを受けないことで不利益な扱いをされることはないはずです。

 たとえ回答しない場合でも、アンケート用紙にざっと目を通して、自分なりにどれがあてはまっているかを見てみることをお勧めします。該当する項目があったら、自分がストレス過剰になっているかもしれないと気付くことができるかもしれません。

 問題は、ストレスチェックの実施者が信頼できるところかどうかです。個人情報の扱いに厳格なところなら、安心できますね。

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ユニオン全国交流集会in愛知・パワハラ精神疾患分科会に参加

 9月27日、第27回コミュニティユニオン全国交流集会in愛知の分科会「いじめ・パワハラ・過重労働による精神疾患」に参加しました。

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 コミュニティユニオン全国交流集会では、毎回のように職場パワハラによる精神疾患の労災認定問題の分科会が開催されます。3年前の京都集会の時にも同じ趣旨の分科会に参加しましたが、今年は3年前に比べて、労災認定を勝ち取ったという報告が多かったように思います。「労災は勝ち取れたが残された課題は何か」というテーマのお話が印象的でした。

 座長は兵庫県のあかし地域ユニオン。あかし地域ユニオンの作成した「職場のいじめ相談ホットライン相談マニュアル」は、すぐにでも使えるような良くできたものでした。精神的に追い詰められた方が相談にいらっしゃった時に、ちょっとした心遣いが大切になるのです。このマニュアルを、なかまユニオンでもさっそく使わせていただこうと思いました。

 また、あかし地域ユニオンで労災を勝ち取った事例で、事件が起きてから時間がたってからの申請であったために、労災休業補償の時効が来てしまい、支給額が減らされてしまったということがあったそうです。

 精神障害の労災申請は、なかなかすぐにはできないことも多いのです。うつ病で精神的に落ち込んでいて、それどころではないことが多いのです。今後の相談では、時効に気を付けないといけないということを学びました。

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 また、きょうとユニオンからは、寺院で働く労働者が過酷な長時間労働で精神障害を発症した事件の報告がありました。

 人々の心をいやすべき寺院ではたらく労働者が精神障害になるのでは、笑い話にもなりません。しかし、実際にそんなことが起きてしまったのです。

 きょうとユニオンからは、「労災打ち切りに注意」という教訓をいただきました。

 精神疾患がまだ治ってもいないのに、労働基準監督署が労災給付を打ち切ってしまうことがあるのです。

 労働基準監督署が労災を打ち切る時には、必ず主治医に意見を聞きます。主治医が良かれと思って言った意見を、労働基準監督署が捻じ曲げて解釈して打ち切りの言い訳にしてしまうことがあるのです。

 労災の認定基準・打ち切り基準をよくご存知ない医者も多いので、こういうことが発生してしまいます。主治医にも、労災制度をよく知っていただく必要があると痛感しました。

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 私たちなかまユニオンも、職場パワハラによる精神障害の労災認定を逆転勝利で勝ち取った事例を報告させていただきました。

 私たちは、全国各地でパワハラ精神障害問題にとりくむ地域ユニオンのみなさんと力を合わせ情報交換しながら、今後もパワハラの無い職場作りを目指していきたいと思います。

 

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「仕事依存症」の流行が問題だ

 「仕事依存症」という病気が問題になっていることを、ご存知でしょうか。

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 「仕事依存症」とか「仕事依存症候群」とか呼ばれる病気は、英語では「ワーカホリック」と言い、精神疾患の一つです。アルコール依存症ともよく似た病気なのです。

 仕事を止められなくなって、遅くまで残業したり、休日に出勤したりします。「仕事熱心なまじめな人だね」ですませていられる間は良いのですが、そのうちに仕事をするのを自分の判断では止められなくなってしまうのです。

 家に帰っても仕事のことが気になってソワソワ、イライラしてしまう、というのが初期の症状です。仕事のことが頭にこびりついて離れないのです。疲れた頭では、いくら考えても良いアイディアが浮かぶはずもないのに、仕事のことばかり考えてしまうのです。

 夜になって眠ろうと思っても、仕事のことが気になって眠れないという状況になります。不眠症です。お酒を飲めば眠れるだろうと思って飲むのですが、酒を飲んでも逆に目がさえてしまい、眠ったと思っても眠りが浅く、夜中に目が覚めてしまいます。

 休日に家にいると、会社に行かねばならないという脅迫観念に襲われることもあります。場合によっては、出勤しても特にできる仕事も無いのに、意味なく出勤して職場でぼーっとしてすごす人もいます。家にいることが罪であるような気分になるのだといいます。これが、「休日恐怖症候群」と呼ばれる状態です。

 人間の体は、ちゃんと休みをとらないと次の日に仕事にうちこむことができません。疲労がたまった体では、能率が悪く、業績もじりじりと低下していきます。

 また、家にいる時間が減るおかげで、家族との対話が減り、家庭内のトラブルが発生して精神的に深刻なダメージをかかえる状況に陥ったりします。

 仕事依存症は、「うつ病」の一種だともいえます。明るく元気に仕事にうちこむのではなく、ソワソワ、イライラした気分で仕事にかりたてられている状態だからです。そして、体が限界を超えると、急速に気分が落ち込み、やる気が全く無くなり、起き上がることすらできない「うつ病」の発作がやってくるのです。

 仕事依存症になる人は、トラブルの多発する職場で責任のある仕事をまかされている場合が多いのです。そういう人が「うつ病」の発作を起こせば、職場は混乱状態に陥ります。

 ですから、仕事依存症にはよく注意しないといけません。休日に家にいることが罪であるかのように感じたら、対策が必要です。

 精神科や心療内科では、強い抗うつ剤ではなく軽い精神安定剤を処方してくれることもあります。それを飲むことで気分をとりなおすことができることもあります。ただ、精神安定剤の効き方は個人差が大きいので、体に合った薬を見つけるには何種類かの薬を試してみないといけない場合もあり、お医者さんとよく話しながら治療を進めた方が良いのです。

 何よりも、仕事依存症に陥るような働きすぎ社会のあり方を、見直すべき時にきているのではないかと思いますね。

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不眠症は労災にならないの?

次のような質問をいただきました。

仕事のストレスで眠れません。病院で薬をもらっています。不眠症は労災にならないのでしょうか。

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  眠れないほどのストレスがあるとは、たいへんなことです。一晩眠れないだけでは不眠症とは診断されませんが、眠れない状態が一か月も続くような場合には不眠症ということになります。

  不眠症には、様々な原因があります。内臓の病気が原因で不眠症になることもあります。労災として認めてもらうためには、業務による精神的ストレスが原因で不眠症になったということを立証する必要があります。

  病名としては、「非器質性不眠症」である必要があります。原因不明の「不眠症」はICD10分類でG47.0ですので、これでは精神疾患として認められません。精神的ストレスが原因の「非器質性不眠症」ならF51.0ですので、労災認定の対象疾患となります。

  不眠症の方の場合、内科の医療機関でも眠剤が処方されることがあります。しかし、労災として認めてもらうためには内科では無理だと思います。労災認定を申請すると労基署が主治医に調査に来るのですが、内科の医師では適切に対処できないと思います。

  仕事による精神的ストレスが原因で不眠症になったのなら、精神科にかかるのが妥当ですし、そうでなくても少なくとも心療内科である必要があります。

  また、精神的ストレスで不眠になっている場合でも、症状が不眠というだけでは労災認定は難しいかもしれません。精神的な抑うつ症状が出ていないと労災認定は難しいと思います。

  抑うつ症状は、はじめのころは本人に自覚が無い場合もあります。気分が落ち込んで回復しない、悲観的な観念がこびりついて離れない、何もする気がしない、などの抑うつ症状は、精神科医と話してみて明確にわかることが多いのです。

  ですから、仕事のストレスで不眠症になって労災かもしれないと思ったら、まずは精神科を受診することをおすすめします。

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仕事のストレスで吐き気や頭痛がします

 次のような声を聞きました。

 仕事のストレスがひどくて、吐き気がしたり肩がこったり頭痛がしたりします。どうなっちゃったんでしょうか。

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 それはたいへんですね。精神的ストレスのせいで自律神経失調症になっている可能性があります。

 「自律神経」というのは、無意識のうちに体の機能の調整をしている神経のことです。交感神経と副交感神経の二系統の神経が体中に張り巡らされて全身状態の調整をしているのです。

 たとえば、昔まだ人類が野山で生活していたころに、山で山菜を集めている時にオオカミに出会ってしまったら、脳と体はどんな反応をしただろうかということです。

 目がオオカミの存在をとらえると、脳はそれが危険な動物であると判断します。過去の記憶でオオカミが人を襲うことがある肉食獣だと知っているからです。

 すると、脳の意識をつかさどる部分は、そのオオカミの様子に意識を集中させます。オオカミが腹をすかせてこっちを狙ってこようとしているのか、それとも腹がいっぱいで襲ってくる気配が無いのか、注意深く観察します。それと同時に、もし襲い掛かってきた場合にはどちら側に逃げたらいいかなど、周囲の状況を把握しようとします。

 この時に、自律神経は無意識のうちに体全体の調整を始めます。まず、脈拍が速くなります。全速力で走って逃げないといけないかもしれないので、あらかじめ血液の拍出量を多くするためです。

 一方で、胃や腸など内臓の動きを止めてしまいます。食物を消化吸収することに血液が使われることをいったん止めて、手足の筋肉に血液をまわすためです。

 オオカミに出会うという、ストレスな事件に対処して生き延びるために、自律神経は無意識のうちに活躍せざるをえないわけです。

 実は、これと同じ事が文明社会に生きる私たちの仕事中にも起きているのです。

 パワハラ上司に難癖をつけられて怒鳴られて、しかし言い返すことも逃げ出すことも許されずに我慢しなければならないような時、山でオオカミと出会ったときと同じような反応を、自律神経はしているのです。脈拍は速くなり、胃腸の働きが止まり、全身の筋肉が緊張状態にはいります。

 そしてこのような職場ストレスが何日間も続くような時、自律神経が疲れはててしまって調整がうまくいかなくなるわけです。これが自律神経失調症です。

 特にストレスになることが無い場面のはずなのに、突然脈拍が速くなり血圧がカーッと上がったりします。すると、耳鳴りやメマイが起きることもあります。逆に血圧がスーッと下がって倒れこんでしまうこともあります。

 胃が動かなくなるので嘔吐してしまったり、激しい下痢をしたりします。

 目や耳などの感覚器が集中する頭部のつけねである肩から頚部が、筋肉の緊張が最も強い部分です。そのせいで肩の血流が悪くなり、炎症をおこして痛くなります。痛みは肩から首、そして頭へと拡がっていきます。特にパソコンの画面を見続ける仕事の最中にストレスになる事件が起きたりすると、いっぺんに肩こりや頭痛が襲ってきます。

 このような症状をひっくるめて自律神経失調症と言うのです。

 これはうつ病などの精神障害の前触れである場合が多く、放置すると数ヶ月のうちに精神症状が出てくることが多いので、気をつけないといけません。

 早いうちに精神科、あるいは心療内科で診察してもらった方が良いのではないでしょうか。そして、ストレスとなっている原因をどうやって取り除くか、職場の安全管理が問われていると思います。

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職場パワハラが原因の精神疾患の労災認定はなかなか難しいが

 このブログを見に来ていただいている皆様、いつもありがとうございます。あいかわらず、「職場のパワハラ」という検索ワードでこのブログにやってくる方が圧倒的に多いのです。

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 職場のパワハラが原因で「うつ病」などの精神疾患になる人が急増しています。日本全国、ほとんどどこの職場でも多かれ少なかれパワハラ原因の精神疾患が見られないところは無いと言ってもいいほどです。

 ところが、どう考えてもパワハラが原因で精神疾患になったとしか考えられないのに、その因果関係がなかなか労基署には認めてもらえないことが多いのです。労災認定が通らないのです。

 本人を診察した精神科の医者が、症状から考えてパワハラが原因としか思えないと言っていても、労基署が委託した医者が本人に会ったこともないのに「違うんじゃないかなあ」という意見書を書いて、因果関係が否定されてしまうというようなことが実際に起きているのです。

 たとえば、上司によって精神的ストレスになるものすごい出来事があったとしても、「それは頻繁じゃないね。たまにしか発生していないから、その程度では病気にならないだろう」と因果関係を否定されてしまったりするのです。逆に、毎日のように頻繁にいやがらせを受けていても「それは弱いストレスだね。そんなに弱いストレスでは病気にならないだろう」と言われることもあります。

 なにげない小さないやがらせが日常的に続いている状態というのは、その証拠を残すことが難しいのです。だから立証することが難しいのです。

 被害者本人が「確かにパワハラを受けました」と言っているのに、労基署はパワハラ加害者の「パワハラなんかしてません」という言葉の方を真に受けがちです。「パワハラがあったと申立て者は言っているが、加害者はやっていないと言っている。だからパワハラがあったか無かったか、事実は誰にもわからない」なんてことになってしまうのです。

 これっておかしくありませんか。加害者が正直な証言をするはずがないじゃないですか。でも、加害者の証言の方が通ってしまったりするのが現実なのです。ですから、職場パワハラが原因の精神疾患の労災申請では、証拠があるかないかが重要になっているのです。

 厚生労働省は、精神疾患の労災認定について全国一律の認定基準を定めているのですが、これは完全なものとは言えません。なんとでも解釈できる余地があるのです。おかげで、都道府県によって、労災認定されやすい所と労災認定されにくい所との格差が発生してしまっているのです。残念ながら、私たちが働く大阪府は労災認定率が異常に低いのです。

 私たちは、「職場パワハラで精神疾患になったら労災認定される」ことがあたりまえの社会を作っていきたいと考えています。現状の労災認定行政は問題だらけで、是正が必要です。そのことが、パワハラの無い職場を作っていくことに役立っていくと思うのです。

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2012年度の精神障害の労災認定率は若干よくなったが

 2012年度(平成24年度)の精神疾患の労災認定の状況(認定率=合格率)が、厚生労働省から発表されています。

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 2012年度の一年間に、うつ病などの精神疾患で労災申請をした人は日本中で1257人いました。そのうち1217人について結論が出て、そのうち475人が労災として認められ、742人が労災ではないと却下されました。

 労災認定率は、475÷1217で、39.0%です。

 2011年度の精神障害の労災認定率は30.3%でしたので、若干よくなっていますね。精神障害労災の新認定基準が実施されたことによって、改善が見られたのだと思います。

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 しかし、それでも39%というのは低すぎる数字です。考えてもみてください。

 精神障害の労災申請という行為そのものが、たいへん敷居が高いものですよね。それでもあえて労災申請する人というのは、業務が原因で精神障害になったというよっぽど強い根拠と確信を持っているはずなのです。それにもかかわらず認定されるのが3分の1でしかないというのは、認定基準のほうが不十分であるとしか思えません。

 都道府県別で見ると、大阪府は認定率が17%しかありません。ものすごい低さです。全国平均の半分にも達していません。東京の40%、兵庫の45%など、都市部では認定率が高いことが多いのです。それなのに逆にこれほどに低いとは、大阪府の労災認定行政に何らかの問題があるのではないかと疑いたくもなりますよね。

 くわしくは、厚生労働省のサイトをごらんになってください。

厚生労働省・平成24年度「脳・心臓・精神障害労災補償状況」まとめ

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「感情労働」と職場ストレス

 こんな質問をいただきました。

 最近、「感情労働」という言葉をよく聞くのですが、これってどういうことですか。お客さんとの関係でストレスのかかる仕事、みたいな意味かなと思うんですが。

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 たしかに、「感情労働」というものは、最近になって注目をあびるようになってきました。

 労働には大雑把に分類して「肉体労働」と「頭脳労働」があると考えられてきたのですが、それだけではなくて第3の労働として「感情労働」があるということに多くの人が気づいてきたのです。

 「肉体労働」とは、自分の筋肉を動かすことで、荷物を運んだり物を加工したりすることです。

 「頭脳労働」とは、自分の脳の計算能力や記憶能力や文章能力を動かすことで、情報を加工したり発信したりすることです。

 では、感情労働とは何でしょうか。

 感情労働とは、自分の感情を動かすことで、周りの人間の感情や気分を動かす労働のことなのです。

 たいへん古い映画ですが、「企業戦士ヤマザキ」というお話の中で、菅野美穂演ずるグレた家出娘がファミレスの店員を見て「うれしくもないのに笑ってんじゃねえよ!」と吐き捨てるように言う場面がありました。この言葉が、感情労働の本質をうまく言い当てていると思います。

 つまり、「うれしくもないのに笑う」のが感情労働なのです。なぜ笑うのかというと、お客さんに気持ちいいと感じさせるためです。客に働きかけて客の感情をコントロールするためという目的をもった行為なのです。いまどきの客商売ならどこでも大切にされる「接遇」というものです。

 そして、「うれしくもないのに笑う」というのは、労働者にとってはたいへんエネルギーのいることなのです。精神的なストレスがかかるのです。持続的な感情労働のあとには、どっと疲れを感じます。映画「企業戦士ヤマザキ」の中では、店員が一日に笑うことにかかるコストが膨大な金額になっているから、いっそ店員が笑うのをやめてしまおうという話になっていきます。

 「うれしくもないのに笑う」という労働よりも、更にエネルギーが必要なのは「本当は怒っているのに冷静さをたもつ」という労働です。これは、クレーム対応、特に不条理なクレームの時に発生します。ゆすり、たかりのために明らかにおかしな苦情を持ち込んで来たモンスターな顧客に対して、それでも冷静な応対をしないといけないのですから、自分の怒りの感情や攻撃的衝動を無理やり押さえつけなければならないので、すごいストレスになります。

 あまりにも重いものを無理に持ち上げようとした時に腰を痛めてしまうのと同じで、あまりにも無理な感情労働をすると、精神をいためてしまうことがあります。適応できる限度を超えて自分の感情を押さえつけると、感情を動かす機能が擦り切れて疲れ果ててしまって、抑うつ状態や不安障害などをひきおこすのです。

 過剰な感情労働による精神障害の発生は、決してその人の「気のせい」などではありません。感情をつかさどる脳や神経やホルモンの働きなどが痛めつけられて、誰が見てもわかるような機能障害をおこしているのです。

 持続的な感情労働を強いられて精神障害になった場合、労災の認定はなかなか難しいのが現状です。現在の労災の認定基準では、じわじわと続く精神的ストレスによる発病は因果関係が証明できないとみなされることが多いからです。

 このあたり、労災の認定基準を見直していく必要があると思いますよね。

 また、私たちの職場である病院に限らず、お店で受付の仕事をしている労働者は、たいした仕事じゃないとみなされて安い賃金の場合が多いのです。しかし、その感情労働のすさまじさを考えたら、それなりの賃金をもらわないと割があわないですよね。

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精神疾患の労災認定基準について質問をいただきました

 ブログを見ていただいた方から、次のような質問をいただきました。

 こんにちは。私も会社でパワハラを受けています。私が受けているのは上司からの無視です。もう2ヶ月も続いています。最初は目をあわさない程度だったんですが、今ではほとんど私に話しかけてきません。引き換えに私以外の部下にはこれでもか、とコミュニケーションをとっています。さすがに1週間もすると皆も分かってきます。私が無視されていることに。しかし私に係わって同じ目にあいたくないんでしょう、同調するように私に話しかけてこなくなりました。来週病院に行くつもりです。そこで質問なのですが、精神疾患で労災となるとありますが、どのような判断基準なのですか(期間?症状の重さ?)?教えてください。

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 職場でつらい思いをされて、たいへんだったと思います。

 精神疾患で労災が適用されるための判断基準なのですが、たいへん複雑です。そして、かなりハードルが高いのです。昨年度の場合、精神疾患で労災申請した人のうち四人に一人しか認定されていません。これは、認定基準をよくわからないままに申請したり、立証がうまくできない方が多いからだと思われます。

 まずは、発病した病名が精神疾患である事、というのが前提条件です。精神疾患になると「吐き気」とか「頭痛」とか「不眠」とかがまずはあらわれることが多いのですが、これらの身体症状だけでは精神疾患かどうかわかりません。「うつ状態」とか「不安障害」とか、はっきりと精神疾患である事がわかる診断がつくことが必要になります。

 「心療内科でも精神疾患の労災は可能ですか」という質問を受けることもあります。不可能ではないのですが、心療内科はあくまでも精神的ストレスによる身体症状に対する診療を行なうのが基本なので、労災認定をしてもらうのなら精神科の医師の方が妥当だと思われます。

 症状の期間や重さには、特に判断基準は設けられていません。ただ、現実には仕事を休まなければならないほどのはっきりとした症状が出ていなければ、労災申請の対象にはならないのではないでしょうか。精神科医師による「休業が必要」という診断書が出るということです。本格的な精神疾患になれば、3ヶ月間とか半年間とかの休業が必要になります。そこまでいかなくても、たとえ一週間というような短期間でも休業が必要なほどの状態であったということが必要になると思います。

 そして、労災となるための判断基準は、「発病日からさかのぼっておおむね6ヶ月間の間に、職場で業務上の強いストレスがあった」ということです。

 「職場でのひどいパワハラやいじめ」は、業務上の強いストレスとされて労災認定の対象になります。しかし、「ひどくないパワハラやいじめ」では労災認定はされません。パワハラやいじめが「ひどかった」ということを説明できなければ、労災には認定されません。

 なにが「ひどく」て、なにが「ひどくない」のか、ここで問題が発生します。

 いじめられている本人にとっては、どんなささいなことでも心にズキッと響く「ひどいパワハラ」なのですが、労災保険にとってみれば「本人がひどいと感じていた」ことでは判断できず、「誰が見てもひどい」という説明が必要になるのです。

 さらには、「ひどいパワハラだったという証拠を持ってきてください」と言われます。質問の方の場合、「上司から無視された」というパワハラですが、これは証拠が残りにくいのが現実です。どういう証拠をもっていけば納得してもらえるのかをよく考えないといけません。

 あと、労災認定の申請書には会社の印鑑がいります。しかし、職場のパワハラで精神疾患になった場合は、多くの場合は会社が印鑑を押すのをいやがります。これには解決法があるのですが、その問題をどうクリアするのかも大きな関門になってきます。

 いかがでしょうか。こんな感じですので、精神疾患の労災認定をお考えの方は労災認定に詳しい専門家の方に相談してマンツーマンでアドバイスしていただくほうが良いのです。お住まいの地域によって労災認定の状況も微妙に違うので、お近くの専門家を探すのがお勧めです。

 

 

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精神障害の労災認定について全国の仲間と交流

 9月16日、コミュニティ・ユニオン全国交流集会in京都の分科会が開催され、私たちは精神障害の労災認定の分科会に出席しました。

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 精神障害の労災認定基準は、昨年の12月に新しくなりました。以前の認定指針よりも認定の範囲が若干拡大されたところがあるので、その部分は活用していこうという話が出ました。

 長時間労働による精神的ストレスの場合、ケースによってはこれまでよりも認定されやすくなったようです。

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 しかし、うつ病や適応障害などの精神障害の労災認定は、まだまだ難しいのが現状です。地域性によって労働基準監督署の判断が異なっており、労災認定がされにくい地域というのがあるそうです。地域による判断の偏りを無くすために新しい労災認定基準が作られたはずなのですが、一度に改善されるものではないのでしょう。

 労働基準監督署がどのような審査をし、どのような判断をするのか、労働組合がたえず注目しておかないといけないのだそうです。いいかげんな判断をさせないためです。

 パワハラでうつ病になったというような場合、証拠がないせいで労災認定されないことがよくあります。これは、全国共通の悩みのようです。

 精神障害ではありませんが、過酷な長時間労働による脳溢血の発症の場合、職場にタイムカードが無かったため長時間労働の証拠がまったく無く、しかし電力会社の記録によって夜遅くまで消灯せずに電気を使っていたことが立証できたので、労災認定されたというケースがあったそうです。

 私たちは、労災認定の申請にあたっては知恵をふりしぼってやっていく必要がありそうです。

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