仕事が原因のケガ・病気は労災です

脳出血・心筋梗塞などの労災認定基準が改正されています

 次のような問い合わせをうかがいました。

 家族が脳出血を起こしてしまいました。働きすぎたためではないかと思うのですが、労災の申請はできるでしょうか。

 

 たいへんお気の毒なことです。脳出血は命にもかかわりますし、命をとりとめても後遺症が心配です。

 脳出血や心筋梗塞などの脳・心臓疾患は労災保険の給付の対象になっています。仕事が特に過重であった時に発症することがあると、これまでの研究でわかっているからです。対象になっている疾病は、脳内出血、クモ膜下出血、脳梗塞、高血圧性脳症、心筋梗塞、狭心症、心停止、重篤な心不全、大動脈解離です。

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 脳・心臓疾患に関する労災認定基準は、昨年2021年の9月に改正され、これまでよりも適用できる範囲が広がりました。

 これまでの認定基準は長時間の時間外労働があった場合にだけ労災と認めるという基準だったのです。発症の一か月前に100時間を超える残業があった場合です。または、過去2~6か月間の残業が平均80時間を超えていた場合です。これらに限られていました。

 今回の改正では、残業の時間がここまで長くなかった場合でも、その他の業務の負荷をプラスして総合的に評価して過重な労働だったかどうかを判断することになりました。残業時間がそんなに多くなくても、その他の業務の負荷が大きければ労災として認めるということです。

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 その他の業務の負荷とは、労働時間以外の拘束時間の長さ、出張の多さや出張先の環境の悪さ、心理的負荷の強さ、著しい疲労をもたらす過重な業務、高温などの作業環境の悪さ、その他脳や心臓に負荷をかけるような異常な出来事、などです。

 詳しくは、厚生労働省から認定基準が発表されていますので、それに該当するかどうか、一つ一つの条件を吟味していくことになります。労災に詳しいユニオンに相談することをお勧めします。

 

 

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なんという痛ましいことか。15歳の少女が業務中に転落死

 次のようなお問い合わせをいただきました。

 15歳の少女が仕事の最中に転落して死んだというニュースを見ました。日本でこんなことが起きるなんて。児童労働は禁止されているんじゃなかったんですか。

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 たいへんいたましい事件です。12月14日に茨城県にある工場で、屋根に取り付けてある太陽光パネルの点検作業中の15歳の少女が、天窓から13メートル下に落下して亡くなったのです。

 報道によれば、天窓のガラスが割れて落下したということですから、ガラスの上に乗った時に割れてしまったのでしょうか。本来、この天窓が人が乗っても大丈夫な強度の物だったのかどうか気になります。

 少女が一人で仕事をしていたのかどうかも気になるところです。ガラスの上に乗ったら危ないよと、周囲で注意してあげる大人がいなかったのかどうかです。

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 お問い合わせの、今回の事件が「児童労働の禁止」にあたらないのかどうかという点です。おっしゃるとおり、児童の労働は禁止されています。この場合、児童というのは15歳になる年度の末日まで、つまり中学校を卒業するまでということです。

 もし、今回の被害者の少女が15歳になったばかりの中学3年生であったならば、児童労働の禁止にあたり、そもそも少女を雇い入れて働かせることそのものがおかしいということになります。

 今回の被害者が、すでに中学校を卒業している15歳であったならば、「児童労働の禁止」には該当しないということになります。

 しかし、18歳未満の「年少者」については、「危険業務の禁止」ということが法律で定められています。労働基準法に付随する規則である年少者労働基準規則の第7条・第8条でそのことが定められています。

 年少者労働基準規則第8条の24号に、「高さが5メートル以上の場所で、墜落により労働者が危害を受けるおそれのあるところにおける業務」を危険業務とするということが、はっきりと書かれています。

 たとえ、天窓のガラスが割れるという事故が起きなかったとしても、高い屋根の上での作業は、足を滑らせるなどして墜落の危険性があります。ですから、このような場所での作業を少女に命じた会社は、どう考えても労働基準法に違反します。

 年少者労働基準規則では、高いところでの作業以外にも、たくさんの作業を年少者が行ってはいけない危険業務と定めています。いくつか例を挙げると、こんな感じです。

・大きな機械を運転したり、稼働中に近づくような作業

・高圧電流を扱う作業

・放射線を扱う作業

・有毒物質を扱う作業

・病原体に感染するおそれのある作業

・酒席での接待業

 年少者は、危険を察知するだけの経験を持ち合わせていないことが多いのです。また、大人にやれと言われたらイヤでも断り切れずに危険な作業をしてしまうことも考えられます。ですから、危険な業務は法律で禁止されているのです。

 少女を仕事中の事故で死亡させるなどということは、大人として最高に恥ずかしいことです。なぜ今回のような事件が起きてしまったのか、真相の解明が必要だと思います。

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働く部屋が過密で狭すぎるのは労働基準法違反?

 次のような質問をいただきました。

 私の働く事務所ですが、狭い部屋にものすごくたくさんの人が押し込められてて、満員電車みたいな感じです。隣の人とぶつかりあって、たいへんです。これって、労働基準法に違反しないんですか。

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 結論から言えば、狭い事務所でたくさんの労働者を働かせるのは、労働基準法に違反する疑いがたいへん強いことです。法律で、労働者一人あたりの面積の基準が決められています。

 労働基準法の関連法である労働安全衛生法に付属する規則の中に、「事務所衛生基準規則」というものがあります。

 この「事務所衛生基準規則」の第二条に、次のように書いてあります。

第二条  事業者は、労働者を常時就業させる室の気積を、設備の占める容積及び床面から四メートルをこえる高さにある空間を除き、労働者一人について、十立方メートル以上としなければならない。

 おわかりでしょうか。ちょっと難しい書き方ですが、労働者一人当たりの部屋の体積を10立法メートル以上にしないといけないということなのです。

 つまり、部屋の天井までの高さが2.5メートルの部屋であれば、一人当たりの広さを4平方メートルにしなければならないのです。2.5メートルの高さというのは、庶民的な集合住宅(安いアパート)での天井までの高さです。

 会社のオフィスであれば、天井の高さがもっと高いところもありますね。でも、天井までの高さが4メートルを超える場合は、4メートルとして計算しろということなのです。高さが4メートルの部屋なら、労働者一人当たりの広さは2.5平方メートルです。

 もし、一つの事務所にたくさんの労働者が入れられて、一人当たりの体積が10立法メートルを下回ることになれば、それは事務所衛生基準規則に違反し、つまりは労働基準法に違反することになります。

 建物の設計図を見ることができないのなら、巻尺で部屋の寸法を測って、労働者一人あたりの部屋の体積を計算してみることをお勧めします。部屋に設置されている大きな設備の体積を引き算することも忘れないでくださいね。設備の体積を除いて、10立方メートル以上ということですから。

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建設現場でケガをしたのに労災にしてくれない

 次のような相談をいただきました。

 建設業の職人です。知り合いの会社にちょっと手伝ってくれと頼まれて建設現場に出ました。そこでひどいケガをして入院するはめになったのです。会社はいつまでたっても労災の手続きをしてくれません。労災にはならないのでしょうか。

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 建設業の事業所にいつもは雇われていない職人さんが、日雇いみたいな感じで建設現場でアルバイトをすることは、よくあることです。そして、危険な現場でケガをすることも珍しくないでしょう。

 どんな契約で働いていたにせよ、仕事中のケガなのですから、本来は労災になるはずです。

 しかし、仕事の契約が「雇用契約」であったのか、「請負契約」であったのかで労災の手続きが異なってきます。そこに落とし穴があったりするので、注意が必要です。

 雇用契約であった場合、仕事中のケガは無条件で労災になります。雇用契約とは、「何月何日の何時から何時までどこそこで仕事・業務内容は現場で指示が出る・それで一日あたりいくらの日当」というような契約です。

 たった一日間のアルバイトであっても、雇用契約は雇用契約です。文書での雇用契約書が無くてもかまいません。口頭契約であっても、その人が出勤して日当をもらったという事実があれば雇用契約であることは間違いがありません。

 「うちの会社は労災に入ってないんよ」などとしらばっくれる会社が時々ありますが、これは法律に違反していることになります。一人でもアルバイトを雇う会社は労災保険に加入する義務があるのです。たとえ、工事請負のために臨時で起業された有期設立の会社であっても、労災保険加入の義務はまぬがれません。

 例外的に、労災保険に加入するかしないかを自由に選択できる企業があります。農業・林業・畜産業・養蚕業・水産業の零細な家族経営企業です。これ以外は強制加入なのです。建設業は、あきらかに強制加入の対象です。

 もしも会社が労災保険に加入していないと言うのなら、今すぐに加入してもらわなければなりません。労働者がケガをしてからあわてて労災保険に加入するのはかっこ悪いことですが、それはこれまで加入の義務を怠ってきた会社が悪いのです。会社の都合にかかわらず、労働者には労災保険を利用する権利があるのです。

 もし契約が「雇用契約」ではなく「請負契約」であった場合は、話が難しくなります。請負契約とは、「建設工事のこの部分をまかせた。出来上がりのしめきりは何月何日だから、それまでに完成させてくれ・納期が守れる限りは、いつ仕事をしようが自由だ・工事が完成したら請負料を支払う」というような契約です。

 請負契約の場合は、働く人が個人事業主となります。個人事業主は労働者であり社長でもあるという立場なので、労災保険には自分で加入の手続きをする必要があります。

 これは「ひとり親方の特別加入」と呼ばれている労災保険加入方法です。

 ひとり親方の特別加入は、「ひとり親方の組合」に加入することを通じて行なうことになります。

 残念ながら、なかまユニオンは「ひとり親方の組合」の認可をもらっていませんので、なかまユニオンを通じて労災の特別加入をすることはできません。

 実際の建設現場では、請負という名目だけれども実際は雇用契約で、現場監督の指揮命令に基づいて働かされているというような実態があったりします。いわゆる「偽装請負」です。

 偽装請負を無くし、労働現場での事故やケガへの補償がしっかりとなされるようにしていかないといけません。

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猛暑なのに扇風機すらない会社は労基法違反か?

 次のようなお問い合わせをいただきました。

 猛暑の中ですが、私の働く会社にはクーラーどころか扇風機もありません。暑くて死にそうです。これって労働基準法違反ではないのですか。

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 ひどいですね。そもそも法律がどうのこうのという問題ではなく、これだけ暑い中でクーラー代をけちる会社は人道上ゆるされませんよね。

  労働基準法第42条には、「労働者の安全および衛生に関しては労働安全衛生法の定めるところによる」と書かれています。労働者の安全と衛生を守らねばなりませんが具体的なことは労働安全衛生法を見てくださいね、ということです。

 そして労働安全衛生法第3条にはつぎのように書いてあります。

第三条  事業者は、単にこの法律で定める労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない。

 つまり、事業者には労働者の安全と健康を確保する義務があるということなのです。

 では、高温の作業環境で労働者を働かせる場合は、具体的にどうなのかという問題になります。これについては、労働安全衛生法に基づいて厚生労働省が「職場における熱中症の予防について」という通達を2009年6月19日に出しています。

 職場の暑さの基準には、「暑さ指数(WBGT指数)」と呼ばれている数値を使います。人間の体感温度には、湿度が影響してきます。湿度が高いと気温は高く感じられるし、湿度が低いと気温は低く感じられます。

 「暑さ指数」は気温に湿度を加味して体感温度を計算したものです。湿度100%のときは、「暑さ指数」は気温とイコールになります。湿度が低い場合には、「暑さ指数」は気温よりも低い温度となります。

 厚生労働省の定めた基準では、「日ごろ暑い環境に慣れている人が安静にしている場合でも、暑さ指数が33度をこえたら熱中症の危険がある」としています。軽作業をしている場合で30~29度、中程度の作業をしている場合で28~26度をこえたら危険だとしています。激しい作業なら25~22度でも熱中症になる危険があります。

 職場の湿度まで計測している人は少ないと思うので、職場の正確な「暑さ指数」はわかりにくいのですが、日本の夏は湿度が高いので、「暑さ指数」は気温とほぼイコールだと考えていいはずです。

 大雑把に言えば、気温が26度を超えれば熱中症の可能性が発生し、30度を超えれば確実に危険性があるのだということです。その場合は、なんらかの対策をとる義務が会社にはあります。

 ですから、最近のような猛暑の日中に労働者を働かせる会社では、クーラーか扇風機が設置されるのはあまりにも当然のことです。扇風機すらない会社はあきらかに労働基準法違反ですね。

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仕事中に客に殴られたら、やはり労災です

 次のようなお問い合わせをいただきました。

 飲食店のチェーン店で店長をしています。酔った客から「店長出て来い」と言われて出て行ったところ、殴られてケガをして病院に行きました。労災になるでしょうか。会社は「お前の対応が悪いから殴られたんだ。労災じゃない」と言いますが。

 たいへんでしたね。結論から言いますと、これは明らかに労災ですね。

 業務上のケガが労災と認定されるには、業務とケガとのあいだに「二重の因果関係」が認められる必要があります。二重の因果関係とは、「業務遂行性」と「業務起因性」です。

 まず、業務遂行性ですね。これは、「労働者が労働契約に基づき事業主の支配下にあること」という条件です。つまり「業務中だったかどうか」です。労働者が、業務とは関係なく自分で勝手にケガをした場合は、業務遂行性が無いということになります。会社内で業務時間中に発生したケガはほとんどが業務遂行性があるとみなされ、労災の対象となります。

 事業主の支配下にあるかどうかが問題になるのは、労働者が出張で会社の外にいるときにケガをした場合ですね。事業主の支配が職場の外にまで及んでいたかどうかが問題になるのです。店長さんの場合は仕事中にお店の中で殴られたわけですから、業務遂行性は認められるわけです。もし、酔った客にお店の外に連れ出されて殴られたのだとしても、トラブルの発端がお店の中、つまり職場にある場合には、因果関係は成立しているのです。

 次に業務起因性です。これは「労働者が労働契約に基づき事業主の支配下にあることに伴う危険が現実化したものと経験則上認められること」という条件です。

 長い文章なので、なんのこっちゃという感じですが、要するに「ケガの原因が業務の内容と関係あるかどうか」ということです

 たとえば、業務中の休憩時間に私用で裁縫をしていてケガをしても、これは労災にはなりませんよということです。

 店長さんの場合には、店長という業務上の責任があったから、不機嫌な酔っ払いの対応をせざるをえなかったわけですよね。仕事でなければ酔っ払いに自ら近づくことなどありえません。お店でアルコールを提供するようなお店においては、酔っ払いとのトラブルはもともと業務に伴う危険性なのです。どんなに上手に対応しても、殴られるときには殴られます。だから、これは業務起因性があると認められるのです。

 「殴った奴が悪いのだから労災じゃない」と会社が主張するとしたら、大きなまちがいです。業務中に業務によって発生した災害ならば加害者がいても労災は労災なのです。もちろん、このような場合、加害者が特定できている場合には労災保険が加害者に対して損害賠償請求の裁判を起こすことになるでしょうね。

 下記の画像は本文とはなんの関係もありません。中川家がよくものまねしている某私鉄の風景です。

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通勤途中のケガは労災になります

 つぎのような質問をいただきました。

 出勤する途中で駅の階段でころんでしまい、運悪く足の指の骨を骨折してしまいました。ある人に労災になると言われたのですが、本当でしょうか。

 答えは簡単です。本当です。労災になります。労災ということは病院で支払う医療費が無料になるということです。

 この場合、労災といっても通常の「業務災害」ではなく、「通勤災害」になります。通勤災害とは通勤の途中に発生した事故によるケガのことです。

 考えてもみてください。出勤する途中の駅の階段ということは、出勤ラッシュの混雑した駅の階段ということですよね。これはたいへん危険ないやな場所です。通常、何の用事もなければ、出勤ラッシュの駅の階段というような危険な場所には誰も行きたくないですよね。そんな場所にあえて行かなければならなかったのは、それが通勤のために必要だったからなのです。通勤の途中、労働者は完全に自由な状態ではなく、通勤をするために拘束された状態にあると考えられます。だから、通勤災害は労災として認められるのです。

 正当な通勤経路で発生したケガは、ほとんどが通勤災害として労災扱いになります。正当な通勤経路とは、「いつもの通勤経路」ということですね。もしもいつも通る経路とは違う道をたまたま通勤しているときにケガをしても、それが「いつもの通勤経路」と同じくらい合理的な通勤経路と認められる場合は、やはり労災になります。

 仕事の帰りに居酒屋に立ち寄り、二時間そこですごした。そのあとで帰宅する途中でころんでケガをした、そんな場合は労災にはなりません。なぜなら、居酒屋に入った時点で通勤は中断され、終了したとみなされるからです。居酒屋からの帰り道は、酔っぱらっているなど通常の通勤とは異なる状態になっていて、すでに通勤ではないとみなされるのです。

 しかし、仕事の帰りにコンビニに立ち寄り、缶ビールを一本購入したあとの帰り道にころんでケガをしたら、これは労災です。コンビニに立ち寄った時点で通勤は中断したが、コンビニから出てきた時点で通勤が再開したとみなされるからです。

 通勤災害でケガをしたら、会社に申請して労災扱いしてもらうことをお勧めします。

 

 

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